オリハルコンまで、あと千二百六十
みるくは薄桃色の部屋着を着て、パソコンの前で家計簿を開いた。机には食べかけのあんパンと冷めたミルクティーがあり、足元ではゲームパッドのコードが椅子の脚へ絡んでいる。オリハルコンまで残り千二百六十経験値という表示を見て、みるくは鉛筆を握り直した。
「利用券にオプション、追加パッケージ、それからショップのお買い物。全部足したら、日本人の平均課金額を大幅に超える高額課金ゲームになっていくのね」
酒場から戻ったフレンドは、焼きたての肉まんを頬張りながら首を振った。鎧の下から赤い腹巻きが見えていたが、本人は気づかず、肉汁のついた指で眼鏡を押し上げている。彼は湯気で曇った視界のまま、得意そうに胸を張った。
「私は月額料金以外、無課金です」
「あなたの話はしていません」
「買わなければ無料で遊べますよ」
「月額料金を払っている時点で無料ではありません。それにパソコン、キーボード、ゲームパッドまで入れたら破産しそうよ」
「キーボードは食べませんから、長持ちします」
「肉まんと比べないでください」
みるくはマイタウンの庭を画面に映した。季節の花、噴水、海岸の庭具、森のこびとの家具が所狭しと並び、もう新しい庭具を買っても設置数の制限で置けない。悩んだ末にサブキャラクターでもマイタウンを持ったため、今度は二つの町を飾る物が欲しくなっていた。
「置けないから買わないのでは?」
「置けないから、置く場所を買ったのよ」
「たいへん合理的ですね」
「あなた、今ちょっと笑ったでしょう」
「兜の中なので見えません」
みるくが睨むと、フレンドは兜を両手で押さえた。欲しくない物を買ってランクを上げれば、無料特典を高値で買うのと変わらない。しかし二つ目のマイタウンには空き地があり、庭具の紹介ページを見るたび、何を置こうかと指が止まった。
「あと千二百六十なら、何を買うのです?」
「それを悩んでいるの。設置数と預かり所の空きと家計簿を、三つ一緒に見ています」
「では、そのあんパンは私が減らします」
「食料の設置数には余裕があります」
みるくは皿を抱えて椅子ごと後ろへ下がった。オリハルコンの文字は金色に輝いていたが、家計簿の数字もパソコンの買い替え時期も少しも光っていない。彼女は冷めたミルクティーを飲み干し、残り千二百六十より先に、二つのマイタウンを歩いて本当に置ける場所を探すことにした。