二万一千円高くなった空
朝、薄い水色の部屋着のまま冒険者の広場を開くと、お買いものランクに最上位のオリハルコンが追加されていた。ダイヤモンドより二万一千円も高い場所に、武器チャームの絵がきらきら輝いている。机には昨日のレシートと汚れた帳面が広がり、冷めた味噌汁の表面では刻んだネギが端へ寄っていた。
「二万一千円も、いきなり上がるの?」
声に出したら、数字がさらに大きく見えた。かわいいお洋服も庭具も欲しいが、電気代や食費まで武器チャームに変えることはできない。私は鉛筆を握り、今年のお買いもの経験値を何度も数え直した。
「ダイヤモンドの家キットも欲しい。でも、オリハルコンまで行かなければ損なのかな」
その日の午後、私は桃色のブラウスと白いショートブーツを身につけ、フレンドのみるくと魔界へ冒険に出た。ところが草むらの宝箱を開けても、入っているのは金貨ではなく「あと二万一千円」と書かれた黒い紙ばかりだった。湿った土の匂いの中で、背負った水筒が腰に当たるたび、買えるものと買えないものが頭の中を行き来した。
「顔がぜんぜん冒険してないよ。ずっと計算してる」
「だって、翌年への繰り越しもあるんだよ。ダイヤモンドを越えてオリハルコンへ届かなかった分は来年へ持ち越せるけど、これから先は決まり方も変わるの」
「それなら、今年中に無理して登らなくても経験値は逃げないんでしょう?」
みるくに言われても、私の胸の中では「あと少し」という魔物が爪を鳴らしていた。そこへ岩陰から、金色の財布を背負った欲張りドラキーが現れ、黒い紙をばらまきながら笑った。ドラキーが羽ばたくたびに、甘い焼き菓子の匂いとショップの購入画面が目の前に浮かんだ。
「今なら届くぞ。来月のことは来月考えればいいぞ」
「その言い方、いちばん怖いやつだよ!」
私は杖を構えたが、ドラキーの腹には「限定」「最上位」「無料特典」という文字が並んでいた。攻撃する前に喉が渇き、水筒の麦茶を飲むと、朝の冷めた味噌汁と帳面の数字を思い出した。二万一千円はただの経験値ではなく、何日分もの食事や暮らしに使えるお金だった。
「欲しい。でも、お金の不安まで一緒に買いたくない」
私は購入画面を閉じる呪文を唱えた。欲張りドラキーは煙を上げて縮み、最後には財布から転げ落ちた一枚の銅貨になった。みるくはそれを拾わず、持ってきた塩むすびを半分に割って私へ渡した。
「オリハルコンは逃げないよ。まず、今日の冒険を楽しもう」
夕方、家へ戻った私は、洗濯物の間に冒険服を干し、帳面へ「無理して二万一千円を使わない」と書いた。それでも武器チャームの画像をもう一度眺め、欲しいなあと小さくつぶやいた。欲しい気持ちは消えなかったが、翌年への繰り越しがあるなら、今夜すぐ決めなくてもよい。
「今年は今年のお財布で進もう。届かなかった経験値は、来年の私に渡せばいい」
冷えた味噌汁を温め直すと、湯気とネギの匂いが部屋に広がった。私は塩むすびの残りを食べながら、お買いものランクではなく、今日使わずに守れた二万一千円を自分の冒険経験値にした。