夏の終わりの幽霊船と焦げたサバ
胃の奥が重く沈み、私は胸元を押さえた。ジュレットの借家には湿った海風が吹き込み、部屋干しのシャツを揺らしている。机には昨夜焼き過ぎたサバが残り、黒い皮の周りで脂が白く固まっていた。私は硬い身を麦茶で流し込み、待ち合わせの砂浜へ向かった。
「そんなボロい装備で来たのか? 幽霊船の宝を狙うのに、足手まといのお前は連れていけない」
ギルバートの隣では、新しく仲間になった魔法使いのエリーが、絹のローブから砂を払い落としていた。強い香水が鼻を刺す。この日のために夜遅くまで回復呪文を練習したが、二人は最初から私を追い出すつもりだった。
「財宝は私たちだけで山分けするわ。貧乏な僧侶は薬草でも摘んでいれば?」
私は古文書を書き写した紙を差し出した。幽霊船は財宝を積んだ船ではなく、欲深い冒険者を捕らえる魔物だと記されている。だが、ギルバートは読みもせず、紙を砂へ投げ捨てた。
「負け惜しみは見苦しいぞ」
二人が小舟で沖へ向かったあと、私は紙を拾って別の依頼へ出かけた。岩場で薬草を摘んでいると、海が黒くうねり、雷鳴とともに朽ちた幽霊船が現れた。甲板に並んだ宝箱へ二人が駆け寄った瞬間、金貨は無数の目玉に変わり、船体に開いた巨大な口が二人を呑み込んだ。
遠くから私を呼ぶ声が聞こえたが、私は薬草を籠へ並べ直した。警告はした。古文書によれば、二人は三日後、装備も所持金も失って浜へ放り出される。
「もう遅いよ。私はあなたたちの後始末をする僧侶じゃないんだから」
依頼の報酬を受け取った私は、酒場で焼きたてのチキンと冷たい果実酒を注文した。熱い肉汁を味わいながら、明日の朝は焦げていないサバを焼こうと決めた。私の新しい冒険は、もう始まっている。