九千四百五十時間と花束大作戦
みるくは桃色のフリルワンピースを着て、花でいっぱいの部屋に座っていた。机には冷めたミルクティー、かじりかけのあんパン、数字を書き損じた帳面が並んでいる。花束は五十四種類、そのうち持っているのは二十一種類だが、倉庫にも屋根裏にも育てた花が散らばっていた。
「何を持っているんだか、次に何を育てたらいいのか、もうわけわかめ!」
注意欠陥多動性障害のみるくは、花を数えている途中で椅子の位置を直し、カーテンを触り、あんパンの餡が袖についたことまで気にし始めた。識字障害もあるので、よく似た花の名前が一覧表の上で混ざり、ブルーリリィを二度数えてしまう。リアルでもバーチャルでも整理整頓は苦手だったが、花から漂う甘い香りまで嫌いになったわけではなかった。
「よし、一度に全部やるのは中止。一箱ずつ調べよう」
そこへフレンドが遊びに来て、床に並んだ花を見て足を止めた。みるくはシルバー、ラベンダー、エメラルドと声に出し、フレンドが帳面へ丸をつける。途中でポイズンカメリアが出てくると、二人は顔を見合わせた。
「花言葉は密会だって」
「誰と密会するの?」
「ププリンさん。花束を交換してもらうの」
「それは普通のお店だよ!」
二人で笑いながら整理すると、足りない花と育てる花が少しずつ見えてきた。みるくはラベンダースズラン三十個を抱え、花束交換屋ププリンのもとへ走る。交換された花束から柔らかな香りが立ち、照れかわのポーズを取った瞬間、九千四百五十時間五十分のプレイ時間が画面に表示された。
「こんなに遊んでも、まだ分からないことがあるんだね」
「だから冒険は終わらないんだよ」
みるくは残ったあんパンを口へ入れ、甘い餡を味わいながら次の種を選んだ。生きづらさはリアルからログアウトしても消えないが、助けてもらい、自分にできる方法へ変えれば、今日も楽しむことはできる。諦めたら試合終了なので、みるくは二十二種類目の花束を飾り、元気よく畑へ飛び出した。