お石そうなチョコレートの花束
みるくは、くすんだ桃色のワンピースに黒い編み上げブーツを合わせ、花の交換屋の前で財布を逆さにした。机には食べかけのチョコパンと、湯気の消えたミルクティーが置かれ、甘い匂いだけが部屋に残っている。今日の目的は、チョコレートリップを三十本集めて「チョコレートの花束」と交換することだった。みるくは購入履歴を指でなぞり、七万千八百六十九ゴールドを二回、六万八千ゴールドを一回、と声に出して確かめた。
「合計二十一万千七百三十八ゴールド。うん、見なかったことにしよう」
「計算した直後に、どうやって忘れるの?」
一緒に来た友だちがあきれると、みるくは三十本の花を抱えて立ち上がった。赤茶色の花びらはつやつやしていて、近づけるとカカオに似た甘い香りが鼻をくすぐる。お腹が鳴ったみるくは、花を一本だけ口元へ運びかけた。
「お石そうなお色です」
「こらこら、誤字です。しかも石は食べられません」
「おいしそう、だった。危ない、石ころを褒めるところだった」
二人が交換屋へ向かう途中、花の香りを嗅ぎつけたチョコモグラの群れが地面から飛び出した。みるくは花を守ろうとして両腕に力を入れたが、紙袋の底から一本、二本と滑り落ちていく。朝から洗濯機に入れたままの靴下を思い出している場合ではない。一本でも食べられたら、花束への交換数が足りなくなるのだ。
「右から三匹来た!」
「そっちは任せて。みるくは花を数えて!」
「二十七、二十八、二十九……ない! 三十本目がない!」
「あなたの頭に刺さってる!」
みるくが頭へ手を伸ばすと、灰色の髪の間からチョコレートリップが一本出てきた。ほっとした拍子にくしゃみをすると、花粉と甘い香りがふわりと舞い、チョコモグラたちは鼻を押さえて転げ回った。友だちはその隙に一匹ずつ追い払い、最後の一匹には食べかけのチョコパンを投げて遠くへ誘導した。
「そのパン、今日のおやつだったのに」
「二十一万ゴールドの花と、百ゴールドのパン。どっちを守るの?」
「パンも大事です!」
騒ぎながら交換屋へ到着すると、三十本のチョコレートリップは大きな花束へ姿を変えた。黄色い包み紙に赤いリボンが結ばれ、何段にも重なった赤茶色の花が店内の明かりを受けてきらきら輝いている。みるくは花束の前で胸元に手を添え、今度こそ間違えないように、ゆっくり口を開いた。
「とっても、おいしそうなお色です」
「色は食べられないってば」
「じゃあ今夜はチョコレートケーキにしよう」
二人のお腹が同時に鳴った。交換屋の主人は笑いながら、棚の奥からチョコクッキーを二枚出してくれた。みるくは花束を眺め、クッキーをかじり、洗濯機の靴下については明日の自分に任せることにした。