三十六番目の渋い花束
みるくは三十六番目となるクレイの花束を手に入れるため、朝から旅人バザーの前に立っていた。青と白の異国風の衣装に孔雀の羽根を飾った帽子をかぶり、クレイガーベラ十本の束を三つ購入すると、合計二十万九千三百七十九ゴールドが財布から消えた。机の端には食べかけのあんパンとぬるくなった麦茶が置かれ、甘い小豆の匂いだけは無料で鼻へ届いていた。
「三十本、そろいました!」
「また二十万以上使ったの?」
「使ったのではありません。花へ姿を変えたのです」
「その花、売らないんでしょ?」
「細かいことを言うと、あんパンを半分あげませんよ」
三十本のクレイガーベラを抱えたみるくは、花束へ交換してもらうために町を走った。乾いた土にミルクを少し混ぜたような花びらは、赤や桃色の花とは違い、見れば見るほど落ち着いた渋さがある。道端で花束をのぞき込んだ子どもが首をかしげたので、みるくは帽子の孔雀の羽根を揺らして足を止めた。
「その花、色を塗り忘れたの?」
「違います。渋いお色なのです!」
「うちのおばあちゃんの上着に似てる」
「それは褒めていますか?」
「おばあちゃんは何でも許してくれるよ」
「なるほど、包容力という意味まで合っています!」
そのとき、花の匂いに誘われた大きな蜂の魔物が、低い羽音を響かせながら飛んできた。みるくは三十本を両腕で抱え、石畳を全力で走ったが、長い青色の腰布が膝へ絡み、干してあった白いシーツの中へ頭から突っ込んだ。前が見えないまま壁へ向かって進みながらも、花だけは高く掲げて守った。
「誰か助けてください!」
「花を置けば戦えるでしょ!」
「二十万九千三百七十九ゴールドを地面へ置けますか!」
「さっきは細かいことを気にするなって言ったよね?」
「ゴールドの話は別です!」
仲間が蜂を追い払ったあと、みるくは曲がった帽子を直し、一本も失わなかったガーベラを花束へ交換した。星空のような紫色のカーテンの前へ飾ると、クレイ色の花びらが金色の光を受け、鮮やかな赤いリボンまで大人びて見えた。部屋の隅では昨日の洗濯物がまだ山になっていたが、みるくは靴下だけ拾って椅子の背へ掛けた。
「これで三十六番目です」
「全部で五十四種類だから、あといくつ?」
「五十四から三十六を引いて……十八種類です!」
「正解。十二種類じゃないよ」
「花ばかり数えていたので、計算する力まで花びらになりました」
「散らないうちに拾っておいてね」
残りが十八種類だと分かると、みるくは帳面に大きく「あと十八」と書き、その下へ二重線を引いた。贅沢でお金のかかるコレクションだが、安い花だけを選んでいた頃には、この渋い色を自分から飾ろうとは思わなかった。バザーを何度も見て、三十本を抱えて走り、蜂に追われてシーツへ飛び込んだ今日の騒ぎまで、花束と一緒に残る経験になった。
「残り十八種類、楽しみですね」
「必要なゴールドを計算してみる?」
「今日は包容力を学ぶ日にしましょう」
「計算から逃げる自分も包み込むの?」
「はい。明日から五キャラの日替わり討伐をフル稼働させます!」
「包容力より労働力が必要みたいだね」