さんごの花束と秘密の恋
41番目のさんごの花束コーラルマリー
ひまりはコーラル色の帽子をかぶり直し、鏡の前で灰色の髪を指先ですくった。白いレースを重ねたコーラル色のドレスには、細い革ひもや金具がたくさん付いており、歩くたびに小さく鳴る。机には飲みかけのミルクティーと、袋を閉じ忘れて少し湿気たビスケットが残っていた。今日は「秘密の恋」という花言葉を持つ花束を作るのだから、いつもの服より少しだけ大人らしく見せたかった。
「よし、コーラルマリーを三十本。これで足りるよね」
ひまりは旅人バザーで買い集めた花を、十本、四本、四本、四本、四本、四本と数えた。合計はちょうど三十本で、代金は九万七千四百九十三ゴールドだった。途中から値札の数字がどれも似て見えてきたため、帳面には指で数えた印がいくつも残っている。
「三十本ある。今度こそ数え間違えてない」
花交換屋へ持っていくと、店員はコーラルマリーを一本ずつ受け取り、長さをそろえて束ね始めた。花からは雨上がりの庭を思わせる青い匂いが立ち、茎を切るたびに湿った音がする。ひまりは完成を待ちながら、ポケットに入れてきた塩味のクラッカーを一枚かじった。
「コーラルマリーの花束をお願いします」
「はい。交換できるのは、さんごの花束です」
「えっ、コーラルマリーの花束じゃないの?」
「材料の名前と花束の名前が違うんですよ。間違えやすいのでご注意ください」
差し出された花束は、黄色い包み紙に赤いリボンを結び、珊瑚を思わせる淡い桃色の花をこんもりと抱えていた。コーラルという名前だから赤みの強い花束を想像していたひまりは、鼻先を近づけ、柔らかな香りを確かめた。包み紙が手の中でぱりぱり鳴り、窓から差す光を受けた花びらが細かな金色を散らした。
「さんごの花束かあ。お花はコーラルマリーなのに、完成すると名前が変わるんだね」
「花言葉は『秘密の恋』です。誰かに贈るんですか?」
「贈らないよ。秘密なんだから、聞いちゃだめ」
家へ戻ったひまりは、木の壁に囲まれた部屋へ花束を並べた。左側には落ち着いた茶色の花、右側には明るい桃色の花が重なり、同じ黄色い包み紙でも部屋の空気まで違って見える。床の隅には朝に脱いだ靴下が片方だけ転がっていたが、今は拾うより花の配置を決めるほうが先だった。
「茶色は隠している気持ち、桃色はこぼれそうな気持ち。秘密の恋にも、いろんな色があるのかも」
ひまりは桃色の花束を中央へ移し、少し離れて眺めた。花に囲まれたコーラル色の服は思った以上になじみ、灰色の髪まで淡い色遊びの一部になっている。冷めたミルクティーを飲むと表面の膜が唇に付き、ひまりは誰もいない部屋で照れ隠しの咳をした。
「でも、さんごの花束を欲しい人は、コーラルマリーを三十本だからね。そこだけは秘密にしないでおこう」