四十五番目、エメラルドの冒険
みるくは黒い帽子をかぶり、白い刺繍の入った黒い冒険服のベルトを締め直した。部屋の机には、自分で作ったスパイクセットの材料帳と、ひまりが錬金に使った道具が置かれ、紙の端には油じみが残っている。スパイクセットを作り、ツインテールのひまりで一つずつ錬金し、装備して戦い、使い込み度を上げて汗と涙の結晶へ変えるまでには、何日もの時間と手間がかかった。
「やっと売れたよ。九十九個が三組です」
汗と涙の結晶は九十九個ずつ三組売れ、一組の受取額は三十万九百六十ゴールドになった。三組なら九十万二千八百八十ゴールドだが、代金はまだ受け取っていない。稼ぐまでにはあれほど長くかかったのに、売れるときは同じ人が三組まとめて買い、一瞬で終わった。みるくは椅子の上で足を組み替え、冷めた麦茶を一口飲んだ。
「これで少し貯金できるね」
「うん。エメラルドリリィを買います」
「もう使うの?」
エメラルドリリィは、四本二万ゴールド、三本一万五千ゴールドが二組、二本一万五十四ゴールド、一本五千二十ゴールドと、細かな束に分かれていた。そのほかにも二本一万ゴールドの束を六組、二本九千ゴールドを二組、最後に一本四千ゴールドを買った。合計三十本、十四万七千七十四ゴールドである。みるくが購入ボタンを押すたび、長い労働で稼いだゴールドは音もなく減っていった。
「作るのは何日もかかるのに、買うのは一瞬なんだね」
「花束を並べるのも一瞬ですよ」
「何やってんだかなー、私」
それでも花交換屋へ三十本を渡すと、胸の奥が少し弾んだ。鮮やかなエメラルド色の花は、黄色い包み紙と赤いリボンにまとめられ、南の海から持ち帰った宝物のように輝いていた。花言葉は「冒険の旅」である。みるくは花束を抱え、まだ見たことのない土地へ出発する冒険者の顔で店を出た。
「いらっしゃいませ。エメラルドのお花屋さんです」
家へ戻って花束を並べると、木の壁の前が一気に明るくなった。けれど、位置を直し、服を着替え、写真を撮り終えると、待ち焦がれた時間はあっけなく過ぎてしまった。床には脱いだ普段着が丸まり、流しには朝の皿が一枚残っている。みるくは花束の間に立ったまま、両腕をだらりと下げた。
「お花屋さんも、きれいに見えるところまで準備するのが大変なんだね」
「全部を完璧にしようとすると、底なし地獄ですよ」
「じゃあ、今日はここまで。テキトーも覚えます」
みるくは気を取り直し、台所でキャベツ、にんじん、ねぎを細かく刻んだ。野菜をたっぷり入れた生地を丸め、油を引いたフライパンへ置くと、じゅうっと音がして香ばしい匂いが広がった。焼き色の付いたお焼きを裏返しながら、みるくは以前に読んだ言葉を口にした。
「楽しみの半分は、それを待っていることにあるのよ。楽しみにしていたものは、結局は手に入らないかもしれない。でも、待ち焦がれることはできるわ」
花を集めている間には、値段を比べ、あと何本かと数え、完成した姿を何度も想像できた。飾って楽しむ時間が短くても、待っていた時間まで消えるわけではない。みるくは熱いお焼きを半分に割り、湯気と野菜の甘い匂いを楽しんだ。四十五番目のエメラルドの花束は、稼いだそばから使うみるくを、次の冒険へ誘うように輝いていた。
「さあ、次はどんな色を探しに行こうかな」