結局、わたしはわたしなのね
にいなの家を見回したみるくは、黒いソファの上で小さく首をかしげた。黒と白の格子模様の床には大きな革張りの敷物があり、同じ色のソファが三つも並んでいるため、落ち着いた大人の部屋を作ったつもりだった。白と薄桃色のレースドレスを着たみるくは、ここならいつもの家とは違う雰囲気を楽しめると考えていた。
「にいなの家は、黒を中心にした格好いい部屋にしましょう。今回は可愛いものを並べすぎないようにするの」
そう決めていたはずなのに、窓際の長い台には黄色、紫色、桃色の花束が仲良く並んでいた。壁際にも白い花束があり、振り返ればコアブラックの花束まで黒いソファの後ろで輝いている。天井から下がった葉や壁の鉢植えまで数えると、部屋のどこを向いても花か緑が視界へ入った。
「ここにも、なぜかお花がいっぱい……」
みるくはそう呟き、ソファへ深く座り直した。ローテーブルには瑞々しい大きな葉が伸び、その向こうではクラゲのような照明が青紫色の光を放っている。格好いい部屋にしたかったはずなのに、気がつけば黒い家具を背景にして花を美しく見せる部屋が完成していた。
「誰がこんなに並べたのかしら」
もちろん、全部みるくである。花束を一つ置くたびに、隣が空いているからもう一つ、色が足りないからさらに一つと増やしてきた。白い花を置けば桃色も欲しくなり、桃色を飾れば紫色も仲間に入れたくなったのだ。
「黒いソファだけでは少し寂しいでしょう。窓辺には花が必要でしょう。壁が空いていたら葉っぱも欲しいでしょう。これは仕方がないのよ」
誰もいない部屋で言い訳を続けていると、現実の机に置いていた麦茶の氷がカランと鳴った。午後のおやつに開けた塩せんべいは、遊びに夢中になっているうちに一枚だけ袋の中で割れている。みるくは麦茶をひと口飲み、欠けたせんべいをかじりながら、改めて部屋を端から端まで眺めた。
「ひまりの家とは違う感じにしたかったのに、好きなものは同じなのね」
同じ家具を使わないように気をつけても、手に取るのは花束や観葉植物だった。黒い床も重厚なソファも、最後には花を飾るための舞台になってしまう。それでも、窓辺に並んだ色とりどりの花束を見ると、胸の内側がくすぐったくなり、取り除く気にはなれなかった。
「まあ、いいか。にいなの家では黒い家具とお花を楽しめばいいもの」
みるくはコアブラックの花束がよく見える場所へ座り、撮影する角度を探した。少し右へ寄れば窓辺の花束が入り、視点を高くすればクラゲの照明と壁の緑も一緒に写る。ようやく気に入った一枚が撮れると、みるくは白い靴のつま先を揃え、画面の中の小さな自分へ笑いかけた。
「家が変わっても、結局わたしはわたしなのね♡」
違う町に家を持っても、好きなものまで変える必要はなかった。黒いソファに囲まれたにいなの家は、いつの間にか今日も花いっぱいである。みるくは次に置けそうな場所を探しながら、もう一つくらいなら増えても大丈夫だろうと考えていた。