ひまりの家で見つけた秘密の花風呂
みるくは、ひまりの家の庭に置かれた白い浴槽へ、白と薄桃色のレースドレスを着たまま腰を下ろした。浴槽には湯が入っておらず、ひんやりした底がスカート越しに伝わってくる。周囲には青や白の大きな花束が並び、右側の壁にも赤、黄、紫の花が隙間なく咲いていた。
「ここにも、なぜかお花がいっぱい。ひまりの家へ来たはずなのに、わたしの好きなものばかりね」
みるくは浴槽の縁へ両手を置き、ひまりが作った庭をゆっくり見回した。昼間なら色鮮やかな花園に見えるのだろうが、夜の青い光に包まれた花々は、魔法の森に咲く植物のようだった。クラゲの形をした照明が淡く揺らめくたび、花束の周囲で金色の光が弾け、甘い花の匂いに湿った土の香りが混じった。
「ひまり、こんな場所を作ったなら、先に教えてくれてもよかったのに」
「教えたら、みるくは昼間に来るでしょう。夜まで待ったほうがきれいなのよ」
花の壁の向こうから、ひまりの声が聞こえた。みるくが浴槽から立ち上がろうとすると、左側の青い花束が急に強く輝き、その奥から小さな羽音が近づいてきた。光る妖精が一匹、青い花びらの間から飛び出し、みるくの頭上を一周してから庭の奥へ向かった。
「待って。せっかく見つけたんだから、置いていかないで!」
みるくは濡れてもいないドレスの裾を持ち上げ、妖精のあとを追った。夕食に食べた焼きそばのソースがまだ少し口に残っており、現実の机には飲みかけの麦茶と、開封したままの塩せんべいが置かれている。おやつへ戻りたい気持ちもあったが、妖精は花の壁の隙間へ消えようとしていた。
「塩せんべいは逃げないけれど、妖精は逃げるもの。今はこっちが先よ」
みるくが花をかき分けると、壁の中に細い通路が隠れていた。葉が腕をくすぐり、白いドレスへ小さな花びらが次々と落ちる。通路の先には古い木箱があり、その蓋には、ひまりの家の紋章らしい小さな花の印が彫られていた。
「宝箱だわ。開けてもいいのかしら」
「駄目と言っても、もう開ける顔をしているでしょう」
追いついたひまりが笑うと、みるくは木箱の留め金へ指をかけた。中に入っていたのは黄金でも武器でもなく、色とりどりの花の種と、少し曲がった銀色のじょうろだった。底には「庭を花でいっぱいにした者へ」と書かれた札まで収められている。
「ひまりへのご褒美ね。わたしが持って帰ったら駄目?」
「みるくの家にも、もうたくさんお花があるでしょう」
「でも、まだ置ける隙間はあるもの」
二人は種を半分ずつ分け、浴槽のそばへ戻った。みるくは再び白い浴槽へ座り、花に囲まれたひまりの庭を見上げた。違う人の家へ遊びに来ても、花を見つければ立ち止まり、新しい花を手に入れれば持ち帰りたくなる。
「結局、わたしはわたしなのね♡」
クラゲの照明が二人を照らし、青い花束から金色の光がこぼれた。みるくは明日どこへ種を植えようかと考えながら、浴槽の中で白いドレスの裾をきれいに広げた。ひまりの家で始まった夜の冒険は、二人の庭に新しい花が咲く約束を残して終わった。