アクアマリンの花束と脱出大作戦
みるくは淡い桃色のフリルドレスを着て、アクアマリンマリーに埋め尽くされた部屋の中央に立っていた。白い髪には灰紫色の花飾りと蝶のリボンをつけ、背中の小さな羽まできちんと整えているのに、足元には花を包んでいた紙と赤いリボンが散乱している。机の上には、朝食にかじったクリームパンと、すっかりぬるくなったミルクティーが残っていた。爽やかな花の香りを胸いっぱいに吸い込んだみるくは、購入記録をもう一度確かめた。十本で二十四万九千九百九十七ゴールド、十本で二十四万ゴールドが二組、合計三十本で七十二万九千九百九十七ゴールドである。
「高い。でも、きれい。つまり後悔はありませんわ」
返事の代わりに、積み上げた花束の山がぐらりと揺れた。みるくは慌てて両手を広げたが、小さな体で三十本の花束を支えられるはずもなく、涼しげな水色の花が雪崩のように押し寄せてきた。甘く青い香りに鼻をくすぐられ、くしゃみをした拍子に、最後まで見えていた扉まで花束に隠れてしまう。部屋から出ようにも、右を見ても花、左を見ても花、後ろを振り返れば黄色い包装紙と赤いリボンの壁だった。
「これは……花束の完成より先に、わたしが生けられてしまいますわ!」
みるくはクリームパンの残りを口へ押し込み、もぐもぐしながら脱出方法を考えた。花を踏むのは嫌だし、押しのければ包装が崩れるし、助けを呼べば七十二万九千九百九十七ゴールドも使ったことまで知られてしまう。耳を澄ますと、壁の向こうから妖精の羽音が聞こえ、淡い光が花の隙間を横切った。みるくは指先でリボンを一本ずつほどき、花束同士を長くつないでいった。
「脱出に必要なのは力ではありません。買いすぎた者だけが持つ、反省とリボンですわ」
完成した長いリボンを柱に結び、みるくは花束の斜面をよじ登った。ドレスの裾が包装紙に引っかかり、途中で片方の靴が脱げたが、拾いに戻ればまた埋まるので、そのまま片足だけ白い靴下で進んだ。ようやく花の山を越えて床へ飛び降りると、背後で三十本のアクアマリンマリーが一斉に崩れ、偶然にも三段の美しい花壇になった。水色の花々が金色の光を反射し、部屋じゅうで星のように輝いている。
「まあ、最初からこうする予定でしたのよ」
誰もいないのを確かめてから、みるくは脱げた靴を花の中から掘り出した。冷めたミルクティーを飲むと表面に花びらが一枚浮かんでいたが、もう取り除く気力は残っていない。こうしてアクアマリンの花束は無事に完成し、みるくも花の牢獄から脱出した。ただし翌朝、寝ぼけて部屋へ入った彼女は、同じ花の山にもう一度埋まった。
「やっぱり、出入口だけは空けておくべきでしたわ!」