大魔王とブラッドの花束
みるくは淡い桃色のフリルドレスを着て、ブラッドカメリアの花束に囲まれていた。燃えるような赤い花びらは、白い髪にも、灰紫色の花飾りにもよく映えている。机には食べかけのイチゴジャムパンと、昨日から置きっぱなしの紅茶があり、その隣には赤い数字だらけの購入記録が広げられていた。十本で三十九万八千九百八十ゴールド、残りの二十本で七十六万ゴールド、合計は百十五万八千九百八十ゴールドである。みるくは金額を二度見してから、指を一本ずつ折って数え直した。
「すごい値段。大魔王の花束というより、わたしのお財布を滅ぼす花束ですわ」
その声を聞きつけ、黒いマントを引きずった大魔王が部屋へ入ってきた。頭には立派な角が生えているが、右手には魔剣ではなく、焼きたてのたい焼きを持っている。甘いあんこの匂いが花の濃厚な香りに混じり、威厳のある登場は三秒で台無しになった。大魔王はブラッドカメリアを見上げ、たい焼きの尻尾をかじりながら目を丸くした。
「見事な赤だな。世界征服の祝賀会に飾りたい」
「一束も差し上げませんわ。これは少女漫画の表紙を飾るためのお花です」
「少女漫画に大魔王は出ないのか」
「出ても途中から主人公に夢中になって、世界征服を忘れる役ですわ」
みるくはブラッドの花束を胸に抱き、鏡の前で横を向いた。鮮やかな赤が頬に温かな色を映し、金色の光が花びらの間でぱちぱちとはじけている。昨日飾ったアクアマリンマリーの涼やかな水色も美しかったが、ブラッドには見る者を一瞬で振り向かせる強さがあった。少女漫画の表紙なら、赤い花束を抱えた少女の背後に、秘密を抱えた美青年を立たせれば完璧である。みるくは大魔王の角と、たい焼きの食べかすがついた口元を見比べた。
「美青年の役には、少し手直しが必要ですわね」
「どこを直すのだ。角か、マントか」
「まず、たい焼きを置いてください」
大魔王が渋々たい焼きを皿へ置くと、みるくは黒いマントに赤い花を一輪挿した。ところが大魔王が格好よく振り返った拍子に、マントの裾が花束へ引っかかった。三十本のブラッドカメリアが次々に倒れ、赤い花と黄色い包装紙とリボンが床いっぱいに広がった。驚いた大魔王は魔力で元に戻そうとしたが、たい焼きまで宙に浮かせてしまい、あんこがみるくのドレスの袖へ落ちた。
「わたしの少女漫画が、急にギャグ漫画になりましたわ!」
二人は床に座り、散らばった花を一本ずつ集めた。大魔王は罰として包装紙を整え、みるくは袖のあんこを濡れた布で叩きながら、赤と水色の花束を交互に並べた。あでやかなブラッドは恋と戦いの表紙に似合い、透明感のあるアクアマリンは秘密と冒険の表紙に似合う。どちらも捨てがたく、みるくは腕を組んで首をかしげた。
「あなたは、情熱的な赤と幻想的な水色、どちらのお色が好きですか?」
大魔王は少し考え、皿に残ったたい焼きを持ち上げた。
「私は、あんこの色が好きだ」
「表紙から退場してくださいませ!」