第五十一番目の花――オーロラの花束
五十四種類の花束を集める旅も、とうとう第五十一番目まで来た。みるくは白地に赤い刺繍の入った上着と、淡い桃色の靴下を身につけ、木の椅子に座って赤い冒険日誌を開いていた。周囲には三十本のオーロラカメリアが並び、白に淡い桃色を溶かしたような花びらが、朝の光を受けて優しく輝いている。散らかった机には冷めたミルクティーと、半分だけ食べたハムサンドが置かれ、ページの隅にはパンくずが一つ挟まっていた。
「残り三種類。ここまで来たのですね」
頭上を飛んでいた小さな妖精が、日誌をのぞき込んだ。十本で三十五万四千ゴールド、その後は一輪ずつ買い集め、三十本の合計は百一万四千七百ゴールドである。数字を書き終えたみるくは、インクで黒くなった小指をハンカチで拭き、もう一度花束を眺めた。鮮やかな赤や深い紫のように強く主張する色ではないが、見ていると肩の力が抜け、少しだけ呼吸が深くなる。
「品のいいお色ですね。そばにいる人を急かさず、黙って待っていてくれるみたいです」
「でも、百一万ゴールドを超えていますよ」
「そこは黙っていてくださいませ。優しい気持ちが逃げてしまいますわ」
そのとき、窓の外から大きな羽音が響き、傷ついた白い鳥が室内へ飛び込んできた。鳥は旅の途中で魔物に追われたらしく、片方の翼を震わせながら花束の陰へうずくまった。みるくは食べかけのハムサンドから塩気の少ないパンだけをちぎり、水と一緒に小皿へ置いた。それからオーロラカメリアを一輪抜き、花びらに宿る再生の光を鳥の翼へそっと当てた。
「大丈夫。急いで飛ばなくてもいいのですよ」
「その花は、高かったのではありませんか」
「花は使うために集めています。帳面の数字を眺めるためではありませんわ」
淡い光が翼を包むと、折れていた羽がゆっくり伸び、新しい白い羽毛が生えてきた。鳥は水を二口飲み、パンをつついてから、確かめるように室内を一周した。勢い余って洗濯物を干した紐にぶつかり、みるくの小さな靴下を頭にかぶったが、それでも元気に羽ばたいている。みるくと妖精は顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「再生の奇跡は完璧です。ただし、操縦には練習が必要ですね」
やがて鳥は靴下を落とし、開いた窓から青空へ飛び立った。みるくは温かくなったオーロラの花束を元の場所へ戻し、冒険日誌の第五十一番目に大きな丸をつけた。残る花束は三種類だが、終わりが近づいたというより、新しい思い出がまた一つ増えたように思えた。みるくは冷めたミルクティーを飲み、少し顔をしかめてから笑った。
「さて、次のお花を探しに行きましょう。今度はお茶が冷める前に帰ってきますわ」