オレンジの花束と最後の一つ
みるくは白いレースのワンピースに銀色のブーツを合わせ、木造の家の中央で両手を腰に当てていた。壁際には白、桃色、紫、黄色の花束が二段にも三段にも積まれ、甘い香りが混ざりすぎて、鼻を近づけると高級な香油なのか花屋の倉庫なのか分からない。机の上には食べかけのクリームパンと冷めたミルクティーがあり、その隣では花束の種類を書いた帳面が、オレンジ色の鉛筆を挟んだまま開いていた。
「ううう、最後の一つがわからない」
みるくは帳面を上から下まで指でなぞったが、途中で同じ行を三度も読み、とうとう白い髪のお団子をかきむしった。昨日までは残り二種類だったはずなのに、オレンジの花束を完成させた途端、残り一種類の名前だけが頭から抜け落ちている。やっぱりどこか抜けてるのら、と口をとがらせたみるくは、まず今日の買い物だけでも確かめようと、四枚の伝票を床に並べた。
「十こで九百ゴールド。十二こで八百四十ゴールド。四こで四百ゴールド。それから四こで三百ゴールド……」
「全部で何本ですか?」
いつの間にか窓から顔を出していた小さなスライムが尋ねたので、みるくは胸を張った。
「二十九本!」
「三十本です」
「知ってたのら。冒険者には、仲間が計算できるか試す使命があるのら」
ごまかしながら数え直すと、オレンジスズランは確かに三十本あった。支払った金額も合計二千四百四十ゴールドで、買い忘れも数え間違いもない。みるくはほっとしてクリームパンをひと口かじったが、粉砂糖が黒い帳面に落ち、よりによって花束一覧の最後の行を白く隠した。
「犯人はおまえだったのら!」
「クリームパンに話しかけないでください」
みるくは袖口で粉砂糖を払おうとして、今度は文字を横にこすってしまった。薄く残った文字は「オ」で始まっていたため、完成したばかりのオレンジの花束だと思い、元気よく丸をつける。しかし、その下にもう一行あるようにも見えたので、みるくは帳面を窓の光へ透かし、右へ傾け、左へ傾け、ついには逆さまにして読もうとした。
「これ、最後の一つじゃなくて、裏のページの文字です」
「では、全種類そろったのら?」
「いいえ。残り一種類の名前を書いた紙を、昨日しおり代わりに使っていました」
みるくは本棚へ突進し、料理本、冒険図鑑、古い日誌を次々に開いた。干からびた薬草、福引券、なぜか一枚だけの靴下は出てきたが、肝心の紙は見つからない。部屋中に花の甘い匂いと古い紙の乾いた匂いが広がるなか、みるくは完成したオレンジの花束を抱きしめ、鮮やかな花に鼻先をくすぐられて大きなくしゃみをした。
「まあいいのら。今日は大親友の花束が完成したから、お祝いするのら!」
「最後の一つは探さないんですか?」
「明日のみるくに任せるのら。明日のみるくは、今日のみるくより賢いはずなのら」
そう言って冷めたミルクティーを飲んだみるくは、渋い顔のまま花束の山に紛れ込んだ。ところが白い花束の陰から、探していた小さな紙がひらりと落ちる。スライムが知らせようとしたときには、みるくはもうオレンジの花束を並べる場所を探し始めており、最後の一つをめぐる冒険は、何事もなかったように翌日へ持ち越された。