大総帥みるく、えっへんする
みるくは、白と水色のフリルが何段も重なった服を着て、総帥Mのいる部屋の列に並んでいた。紫色に光る大きな扉の前には、戦いを終えた冒険者たちがずらりと並び、鎧からは鉄と汗と薬草の匂いが漂っている。みるくは待ち時間に食べようと、道具袋から焼きたてのアクロバーガーを出したが、ひと口かじったところで前の人が急に進んだため、危うくレタスを床へ落としかけた。
「待って、まだ口の中に大総帥とは関係ないものが入ってるのら」
前に立っていた紫色の鎧の女性が振り返り、みるくの膨らんだ頬を見て笑った。みるくは慌てて飲み込んだものの、今度はソースが白い手袋についており、威厳のある敬礼ができそうにない。仕方なくハンカチで指を一本ずつ拭きながら、今日までに集めた実績の数を頭の中で確かめた。
「二百個。間違いなく二百個なのら。もし百九十九個だったら、ここで床の木目を数えて帰るしかないのら」
やがて順番が来ると、総帥Mは帳面を開き、みるくの冒険記録を上から下まで確認した。冥黒の悪夢兵団では、戦士、僧侶、旅芸人、どうぐ使い、天地雷鳴士で防衛し、討伐にも成功している。しかし未達成の職業がずらりと残っていたため、総帥Mは片方の眉を上げ、乾いた羽根ペンの先で帳面を軽くたたいた。
「魔法使い、武闘家、盗賊、バトルマスター……ずいぶん残っているな」
「そこは伸びしろと呼んでほしいのら」
「ものは言いようだな」
みるくは背筋を伸ばしたが、宙に浮いた椅子のような仕草で足をぶらぶらさせていたので、威厳よりも昼寝前の子どもに見えた。部屋の隅では誰かが持ち込んだ洗濯物のような濡れたマントが椅子に掛けられ、その下には食べかけのアジの開きまで置かれている。これほど暮らしの匂いがする司令部で偉くなってよいものかと思ったものの、みるく自身の道具袋にも冷めた味噌汁が入っているので、人のことはいえなかった。
「確認した。ぜんぶのクリア実績数、二百。今日から君の階級は大総帥だ」
「やったー!」
みるくが右手を高く突き上げると、白い袖のフリルが勢いよく揺れ、近くを飛んでいた小さな妖精が風に押されて一回転した。総帥Mから渡された勲章はずっしりと重く、表面には新しい金属の匂いが残っている。さらに防衛戦ではすべてのダメージが一パーセント上がると聞き、みるくは胸を張った。
「一パーセント! 百回攻撃したら、なんとなく一回分くらい強そうなのら!」
「計算はもう少し複雑だ」
「細かいことを言うと、お祝いのアクロバーガーを分けてあげないのら」
列に並んでいた冒険者たちが拍手すると、みるくは勲章を胸につけ、何度も角度を変えて皆に見せた。ところが得意げに三歩進んだところで、長いフリルの裾を自分の靴で踏み、その場でぴたりと止まった。転ばなかったことまで実績に入れてほしいと考えながら、みるくは何事もなかったように顎を上げた。
「大総帥は、これくらいでは転ばないのら。えっへん」
「ただ裾を踏んで動けないだけでは?」
「大総帥には、立ち止まって部下を見守る仕事もあるのら!」
総帥Mが吹き出し、部屋中に笑い声が広がった。みるくはようやく裾を靴の下から引き抜くと、残りのアクロバーガーを大きくかじり、香ばしい肉汁と甘いソースを味わった。次の将星まではあと五十実績も必要だったが、今日は二百個を達成した立派な大総帥なので、みるくは勲章についたソースだけをこっそり拭きながら、もう一度胸を張った。