布団と朝食と恐怖の化身
朝のみるくは、薄い水色の部屋着の袖を肘までまくり、掛け布団を両腕で抱えてベランダへ運んでいた。八月の陽射しはすでに強く、布団を物干しざおへ掛けるだけで額に汗がにじんだが、部屋ではバトル・ルネッサンスの恐怖の化身が待っている。超強いバトルを三分四十秒以内に倒す条件を確認したみるくは、布団の端を洗濯ばさみで留めながら室内へ声をかけた。
「ちょっと待っているのら。恐怖より先に、布団をお日さまに当てるのら!」
台所ではフライパンが温まり、焼いた食パンの香ばしい匂いが漂っていた。みるくは卵を割って目玉焼きを作り、黄身が固まりすぎないよう弱火にしてから、ゲームの画面へ戻った。机には氷をたっぷり入れたアイスコーヒーがあり、グラスの外側についた水滴が帳面の端を濡らしている。
「朝食、布団、超強い敵。今日は朝から予定が混み合っているのら」
「恐怖の化身を朝の家事に混ぜるな」と仲間が言った。
「三分四十秒で倒せば、目玉焼きも焦げないのら!」
戦いが始まると、恐怖の化身は黒い力をまとい、大きな音を立てて襲いかかってきた。みるくは白と金の戦闘用ドレスへ着替える時間がなく、水色の部屋着の気分のまま天地雷鳴士の扇を振った。冷房の風、フライパンから聞こえる小さな油の音、アイスコーヒーの苦い香りが混ざり、いつもの戦場より忙しい朝になった。
「敵の動きを見るのら。先に技を決めず、後出しじゃんけんなのら!」
「目玉焼きの様子は見なくていいのか?」
「今それを言われると、黄身が気になるのら!」
みるくは台所へ走りたくなる足を止め、恐怖の化身の構えをよく見た。危険な攻撃から離れ、それが終わってから強化を入れ、仲間と一緒に攻撃を重ねる。妖魔将ゲジュラとの戦いで自分だけ床へ倒れた教訓があったため、今回は仲間の印ばかり見ず、敵の姿から目を離さなかった。
「今日は一人だけ寝ないのら。寝るのはベランダの布団だけなのら!」
恐怖の化身の攻撃が床を揺らし、黒い風が白い光とぶつかった。みるくはアイスコーヒーへ手を伸ばしたくなったが、敵が動いている間はグラスに触れず、攻撃の切れ目でひと口だけ飲んだ。氷がからりと鳴り、冷たく濃いコーヒーが喉を通ると、指先まで目が覚めた。
「おいしいのら! これで攻撃力も上がった気がするのら!」
「コーヒーに、そんな効果はないぞ」
「気分の攻撃力は上がるのら!」
仲間の一撃を受け、恐怖の化身が大きくよろめいた。みるくも扇を振って最後まで攻撃を続けると、黒い巨体は時間切れになる前に床へ倒れた。三分四十秒以内の条件がクリアになったことを確認し、みるくは扇より先にフライ返しを握った。
「やったー! 次は目玉焼きを救出するのら!」
台所へ戻ると、目玉焼きの縁は少しだけ茶色くなっていたが、黄身は無事だった。焼いた食パンにのせると、半熟の黄身がとろりと流れ、胡椒とバターの匂いが朝の部屋へ広がった。ベランダでは布団が陽射しを浴び、グラスにはまだ氷が残り、実績一覧には恐怖の化身の達成印がきちんとついている。みるくは確認のためにもう一度一覧を開き、食パンを大きくかじった。
「布団も干した、朝食も作った、恐怖の化身も倒したのら。今日の朝は、もう三回クリアなのら!」