使うのは一瞬
みるくは、青い髪を白い布でまとめ、赤茶色の胴着と白い短パンに着替えて、秋色の木々が並ぶ広場に立っていた。朝の空気には湿った土と落ち葉の匂いが混じり、紫色の小花の上では小さな羽虫が忙しそうに飛んでいる。出かける前にかじったバタートーストの塩気がまだ舌に残っていたが、画面に表示された数字を見た途端、みるくの口は動かなくなった。所持金と銀行を合わせても、残っているのは九千三百五十三万九千八百八十三ゴールドだった。
「えっ、待って。一億一千万以上あったよね?」
みるくは指を一本ずつ折り、花束の材料や庭具を買った日のことを数え始めた。あの日は三十万ゴールドを安いと思い、別の日には百十万ゴールドの花を見つけて、売り切れる前に買わなくてはと急いだ。一回の買い物は小さく見えたのに、帳面の数字を足していくと、千六百万ゴールド以上が消えている。机の端では飲みかけの麦茶がぬるくなり、氷の溶ける小さな音だけが部屋に響いた。
「貯めるのは何週間もかかるのに、使うのは一瞬なのら」
そこでみるくは、インターネットで『DQ10 金策』と検索した。画面には、何キャラも作って日替わり討伐を回し、一日に百万円を稼ぐという人たちの記事が並んでいた。五キャラなら自分にもできるかもしれないと思い、みるく、ひまり、そして倉庫で眠っていた三人まで順番に起こした。昼には冷蔵庫から出したおにぎりを立ったまま食べ、海苔を服につけたまま討伐隊員の前へ走った。
「次は落陽の草原、その次は風車の丘……まだ三人目なの?」
五人分の日替わり討伐を終えるころには、窓の外が薄い橙色に染まっていた。同じ道を何度も走り、同じ魔物を探し、報告するたびに数字は増えたが、肩は石でも載せられたように重くなっていた。ひまりの番になると、いつもなら真っ先に向かうランプ錬金設備の前を素通りし、白い手袋を外して椅子へ放り投げた。錬金用のランプには火が入らず、隣に置かれた昨日のカップスープには薄い膜が張っていた。
「今日は錬金、お休みにするね」
「日替わりだけで百万円の人って、毎日これをやってるの?」
返事をする者はいなかったが、みるくは五人分の報酬が入った財布を開いた。増えた金額は確かにうれしく、朝よりも数字は大きくなっている。それでも一億一千万まで戻る道のりを考えると、指は次の討伐先を選ばず、ひまりの隣に座る操作を選んだ。秋風が黄色い木の葉を揺らす中、二人は広場のたいまつを眺めながら、残しておいたクリームパンを半分ずつ食べた。
「すごい人の真似は、毎日じゃなくてもいいのら」
「うん。明日は二人だけにしよう。それから、買い物をする前に帳面を見る」
みるくは九千三百五十三万九千八百八十三という数字を、今度はきちんと帳面に書いた。使ったお金は戻らないが、ひまりの錬金まで嫌いになるほど走り続ける必要はない。指についたクリームをなめると、甘い味の向こうから、冷え始めた夜の匂いがした。二人は立ち上がらず、今日稼いだ分だけは使わないと約束して、たいまつの火が小さく揺れるのをしばらく眺めていた。