処暑の空と五人分の畑
処暑を迎えたアストルティアでは、昼の光にまだ夏の強さが残っていた。白銀の髪を揺らすみるくは、格子模様の白いドレスと星飾りの長靴を身につけ、紫色の空に浮かぶ城を見上げた。討伐へ向かう前に飲んだレモン水の酸味が舌に残っており、鞄の中では五人分の依頼書が折れ曲がっていた。
「一人分でも大変なのに、五人の日替わり討伐を毎日する人はすごいのら」
みるくは最初の依頼を終えると、別の仲間へ交代した。装備を替え、町を走り、報酬を受け取る作業を五回繰り返すうち、窓の外では夕方の風がレースのカーテンを揺らしていた。机には食べかけの塩せんべいと冷めた麦茶が置かれ、討伐の合間に一枚かじるたび、ぱりりと乾いた音がした。
「これを毎日続けて、そのうえ畑まで回るのら?」
五人目の討伐を終えたころ、みるくの指はコントローラーの上で重くなっていた。それでも住宅村へ戻ると、畑の土は乾き、小さな芽が葉を伏せていた。みるくは白い裾を汚さないよう持ち上げ、一畝ずつ水をまいた。湿った土の匂いが立ち、夏の終わりを知らせる涼しい風が頬をなでた。
「お水をどうぞなのら。大きなお花になるのですよ」
五つの畑を世話し終えると、空には淡い橙色が混じっていた。毎日の討伐も畑仕事も派手な冒険ではないが、続けるには時間と根気がいる。みるくは紫の城を背にして腰へ手を当て、同じ作業を欠かさない冒険者たちの暮らしを思った。
「みんなを尊敬するのら。みるくは今日だけで、もう塩せんべいのおかわりが必要なのです」
部屋へ戻ると、麦茶の氷はすっかり溶けていた。みるくは新しい氷を二つ入れ、処暑の夕風が通る窓辺へ座った。五人分の報酬袋と水をもらった畑を眺めながら、明日もできる範囲で続けようと、せんべいをもう一枚だけ手に取った。