星降る洞窟と塩むすびの光
背筋がぞくぞくとして思わず両腕をさすりながら、みるくは青く輝く地底の集落を見上げた。頭上には満天の星空のような水晶が敷き詰められ、ひんやりとした湿った風が純白のドレスの裾をかすかに揺らしている。出発前に宿屋の部屋干し用のロープへ干してきた、半乾きの厚手靴下の生乾き臭をふと思い出し、こんな暗がりでも太陽のように明るい歌声を響かせてみせようと唇を引き結んだ。
「ねえ見てよ、まるで創世記の『光よ、輝け』って場面そのものじゃない?」
隣を歩く旅の仲間は、竹の皮に包まれた大きなおにぎりを頬張りながら、みるくの銀細工の髪飾りをじっと見つめた。青白い光を放つ奇妙な形の住居が並び、足元の湿った土からはピリッとした鉱物の香りが漂っている。昨日買ったばかりの白いロングブーツの爪先に泥がつかないよう、みるくはぴょこぴょこと小刻みに跳ねながら歩を進め、この神秘的な世界に自分の美声がどう響くかを想像して胸を躍らせた。
「光は綺麗だけどさ、さっきから塩昆布の匂いしかしなくて神秘的な気分が台無しだよ」
ぷっと頬を膨らませて腰の星飾りをジャラリと鳴らし、みるくは相棒の持つおにぎりへ視線を落とした。岩肌を流れる地下水のせせらぎが冷たく響き、遠くのランタンの明かりが彼女の幾何学模様の白いビスチェをぼんやりと照らしている。昨日の夜に机の端へ置きっぱなしにして油が浮いてしまった冷めた味噌汁を思い出し、喉を潤す温かいお茶が今すぐ恋しくなりながらも、吟遊詩人の誇りを胸にすっと息を吸い込んだ。
「失礼ね、塩分補給は旅の基本よ、わたしは心に太陽を抱いて歌うんだから!」
胸元に両手を当ててパッと目を見開き、みるくは集落の中央にかかる青い水晶の橋の上で大きく口を開いた。物陰から様子をうかがっていた青い肌の住人たちが、物珍しそうに彼女のまわりへ集まって足を止める。実家のタンスの引き出しに置き忘れてきたお気に入りのリボンの柄をぼんやりと思い浮かべながら、彼女は地底の闇を吹き飛ばすように元気いっぱいの高音を響かせた。
「初めに神が光を作ったなら、わたしはこの歌で焼きたてのパンの匂いを届けてあげるわ!」
朗々と響き渡る声に合わせて洞窟内の水晶が共鳴し、みるくの銀色の長い髪がふわりと光の粉を散らした。住人たちはお互いに顔を見合わせると、手にした鉱石のランプを振って楽しそうにステップを踏み始めた。歌う喜びが爪先から指先までじんじんと伝わってきて、彼女はくるりと一回転してフィニッシュのポーズを決めた。
「どんな深い闇の中でも、唇に歌があれば迷子にはならないのよ!」
洞窟いっぱいに盛大な拍手が響き渡り、みるくは満足げに白いドレスのフリルを揺らしてぺこりとお辞儀をした。集落の長老が笑顔で歩み寄り、焼きたてのアツアツな焼きキノコを差し出してくれる。香ばしい醤油の香りが鼻腔をくすぐった瞬間、彼女のお腹は洞窟の奥まで届くような大音量でグウと鳴り響いた。
「歌ったらお腹がペコペコよ、そのキノコと塩むすびを全部半分こしましょ!」