青空の山街と焼き鳥の串
胸がスーッと軽くなって自然と口元が緩み、みるくは緑の屋根が連なる山あいの街を見渡した。抜けるような青空の下で山の峰が白く輝き、谷底からは爽やかな杉の香りと、どこかの民家で魚を焼く香ばしい煙がふんわりと立ちのぼっている。出がけに宿屋の引き出しへ乱雑に押し込んできた、片方だけ穴の空いたお気に入りのボーダー靴下のことをふと思い出しながら、彼女は両手に構えた二本の短剣の柄をくるりと回して冒険の心得を相棒に説くことにした。
「ねえ聞いて、最高にわくわくする冒険を楽しむ秘訣って何か知ってる?」
声をかけられた旅の相棒は、屋台で買ったばかりのネギマの串を器用に口へ運びながら、みるくの純白のドレスと頭の銀の髪飾りをまじまじと見つめた。急な斜面に沿って建てられたレンガ造りの家並みの上には木造の吊り橋が揺れ、遠くの山肌を滑り落ちる滝の音がごうごうと涼しげに響いている。朝に手入れしたばかりの白いロングブーツの革を汚さないよう、みるくは石段の端のコケを慎重に避けながら、相手がどんな真面目な顔で質問に答えるのかと期待を込めて前のめりになった。
「そりゃあ地図をしっかり確認することと、強い武器を揃えることじゃないの?」
思わずふふんと鼻を鳴らして両手を腰に当て、みるくは得意げに白いフリルのスカートを揺らした。崖沿いの花壇からは黄色い野花の甘い香りが風に乗って漂い、日差しを浴びた彼女の銀糸のビスチェがキラキラと眩しく反射している。昨日の夜に手帳へ書き殴った旅の日記のページに、うっかり垂らしてしまった醤油の染みのことを思い出しつつ、彼女はプロの吟遊詩人らしく人差し指をピンと立ててみせた。
「ノンノン、一番大切なのはね、どんな寄り道も全力で楽しむ心の余裕と美味しいおやつよ!」
呆れたように相棒が天を仰いで息を吐き出すと、みるくは楽しげに吊り橋のたもとへ向かって駆け出した。石畳の通りには買い出しの商人たちが行き交い、干されたばかりのシーツが風を孕んでバタバタと心地よい音を立てている。子供の頃にお母さんの目を盗んでつまみ食いした、揚げたてのドーナツの甘い味を懐かしく頭に浮かべながら、彼女は青空に向かって高らかに美声を響かせた。
「ほら見て、あの吊り橋の向こうに美味しそうな串焼きの匂いが漂う絶景スポットがあるわよ!」
相棒は手に持った焼き鳥の串をぷらぷらと振ると、みるくの勢いに引きずられるように大きな笑い声をあげた。谷間を渡る風がみるくの銀色の長い前髪をサラリと揺らし、街中に彼女の歌う陽気なメロディがこだましていく。二人は顔を見合わせて同時に足を速め、まだ見ぬ山の頂上を目指して元気に石段を駆け上がっていった。
「危ないから走るなって! でも、あの頂上で食べるお弁当は絶対に最高だろうね!」