夜光樹の庭と小さなレモンの実
胸の奥がじんわりと温かくなって自然と両手を胸元で重ね、みるくは青い光に包まれた静かな庭園を見渡した。背中の妖精の羽が夜風を受けて微かに震え、頭に飾った淡いピンクの薔薇の髪飾りに小さな光の蝶がふわりと留まっている。縁側に脱ぎ散らかしたサンダルの横で、洗濯物のシーツが夏の夜風を孕んで心地よさそうに揺れている風景を頭に思い浮かべつつ、このアストルティアの果樹に負けないくらい自分の小さな鉢植えも愛おしいと目を細めた。
「ねえ見て、この木にはランタンみたいに明るい果実がこんなに鈴なりに実っているわ!」
隣で庭の手入れをしていたエルフの友人は、かじりかけの甘酸っぱいハチミツトーストを皿に置きながら、みるくの着ているピンクと白のふんわりとしたフリルドレスに視線を向けた。夜露に濡れた青い花壇からは爽やかなハーブの香りが立ちのぼり、奥の小さな滝から流れる清らかな水のせせらぎが庭中に響き渡っている。昨日の朝に机の端へ置き忘れてすっかり冷めた味噌汁の椀を片付けなきゃと思い出しつつ、みるくはエプロンをつけた友人がどんな優しい言葉を返してくれるのかと期待を込めて耳を澄ませた。
「ここは魔法の力で年中豊作だけど、みるくがリアルの庭で毎日お水をあげているあの小さな木の話も大好きだよ」
嬉しさで頬がぽっと赤く染まって思わず爪先でトントンと石畳を叩き、みるくは夜空に向かってふわりと羽を羽ばたかせた。満天の星空の下で黄色い実がぽうっと優しく光を放ち、彼女の腰に巻かれたパールベルトが星屑のようにキラリと輝きを反射している。散らかった帳面の隅っこに書き殴ったレモンの水やり日記のメモを思い出しながら、あの猛暑をじっと耐え抜いてくれた小さな緑色の実がどれほど誇らしいかを伝えたくて身を乗り出した。
「そうなのよ、去年買った小さな木なのに、よーく見たら大きな実がひとつだけ堂々と実をつけていたの!」
友人は楽しそうに目を細めて笑い声をあげると、みるくの頭の薔薇飾りに触れそうなほど近くまで顔を寄せた。夜風に乗ってどこからか焼きたてのパイの香ばしい匂いが漂ってきて、みるくのお腹がきゅるりと可愛らしい音を立てて小さく鳴る。実家の庭の片隅に置きっぱなしになっている古い素焼きの植木鉢をぼんやりと思い浮かべながら、彼女は秋が訪れたときの素敵な計画を口にして笑顔を咲かせた。
「秋になったらね、もっと大きな新しい鉢を買ってきて大切に植え替えてあげるつもりなの」
胸いっぱいに広がる優しい温もりを噛み締めるように両腕で自分の肩をぎゅっと抱きしめ、みるくは満開の青い花たちへ向かって朗らかな声を届けた。友人は頷きながら、皿に残っていたもうひとつの温かいハチミツトーストを差し出して彼女の手にそっと握らせてくれる。甘いバターの香りとハチミツのコクを口いっぱいに頬張りながら、小さな命がこれからもすくすくと育つ未来を信じて二人は静かに微笑み合った。
「たった一つの小さな実だけど、たっぷりの愛情を注いで大切に育てていくんだから!」