絶望のハウジング日誌――五十四束は入店できません
みるくはオレンジ色のチュニックに茶色い革帽子をかぶり、住宅展示場のマガザンへ入った。入口では白い花が甘く香り、棚には赤、黄、紫の花束が宝石のように並んでいる。朝食に食べたバター付きの丸パンが半分だけ鞄に残っていたが、きれいな店内で取り出すのは気が引けた。
「これが五千円近く使ったハウジングなのね。さすがプロのお仕事なのら」
「家キットと家具庭具セットを使った、フラワーショップの展示ですよ」
「これなら、みるくの花束五十四種類も置けるかもしれないのら」
みるくは帳面を開き、展示されている花束を一つずつ数え始めた。ショーケースには色鮮やかな花が並んでいたものの、五十四種類すべてが置かれているわけではなく、同じ形の家具を上手に組み合わせて店らしく見せていた。帳面の端には昨夜こぼしたミルクティーの丸い染みが残っており、指でこすると甘い匂いがかすかによみがえった。
「一、二、三……あれ、もうおしまい?」
「全部を並べた展示ではありませんからね」
「フラワーショップなのに、五十四種類の花束がないのら?」
「売場として美しく見える数に絞ってあります」
奥の部屋へ進むと、大きな植木と垂れ下がる緑の葉が目の前を埋め、金色の光が床へ落ちていた。みるくは葉に帽子を引っかけ、慌てて両手で押さえながら、自分の家ならこの隙間にも花束を三つ置くと考えた。ところが、家具の設置数を頭の中で数え直すと、ショーケースを置いた時点で、五十四種類を並べる余裕など残らなかった。
「マガザンの家キットを買うと、二百九ショップポイントと二百九Expがもらえるのら」
「家具庭具セットは二千八百六十円で、二百八十六ポイントと二百八十六Expですね」
「合わせて五千円近いのら。これを買えば何とかなると思っていたのら」
「家が大きくなっても、設置できる家具の数が五十四個増えるわけではありませんよ」
みるくは返事の代わりに、鞄の中の丸パンを取り出してかじった。冷えたパンは少し固く、バターが帽子のように上あごへ張りつき、花の香りまで小麦の匂いに負けてしまった。高い家キットを買い、十六点セットを並べ、そのうえ五十四種類の花束まで飾る計画は、最初から入口を通れないほど太っていたのだ。
「無理げーなのら」
「急にどうしました?」
「花屋なのに、花束を全部置けないのら。置けもしないのに買い集めたみるくがバカでした」
「全部見せようとせず、季節ごとに入れ替えてはいかがですか」
「春の花を片づけた場所が分からなくなって、秋にまた買う未来が見えるのら」
展示場を出ると、夕方の風がチュニックの裾を揺らし、遠くから焼きとうもろこしの香ばしい匂いが流れてきた。みるくは五十四種類の花束が詰まった自分の家を思い出し、財布を開いて残金を確かめたが、帰り道の家具屋には新作の花台が飾られていた。彼女は財布を閉じ、三歩だけ通り過ぎ、それから首だけを後ろへ向けた。
「見るだけなのら」
「先ほども、その言葉を聞きましたよ」
「今日は買わないのら。たぶん買わないのら。でも花台があれば、上下に二束置けるかもしれないのら」
「そうやって、また設置数を一つ使うんですよ」
みるくは店先で動かなくなり、やがて帳面へ大きな字で「花束五十四種類を一度に置くのは無理」と書いた。その下へ少し小さな字で「花台は一応、値段だけ確認」と付け足し、焼きとうもろこしを一本買ってから家具屋へ戻った。しょうゆの匂いが漂う指で新しい花台をつつきながら、みるくのハウジング日誌は、今日も反省ではなく買い物の記録で一ページ増えた。