海底のお花屋さんと十三不塔の大騒動
海底のお花屋さんを本日オープンしたみるくは、桃色の縞模様の上着と短いスカートに着替え、五十四種類の花束が並ぶ店内を見回した。白い砂床には赤、青、黄、緑、茶色の花束が脈絡なく続き、奥には珊瑚の木、その隣には昨夜食べた焼きそばパンの包み紙が落ちている。甘い花の香りに潮の匂いが混じるなか、みるくは冷めたミルクティーをすすり、胸を張った。
「完璧なのら。どこから見ても、お花屋さんなのら」
「どこから見ても、色別倉庫だよ」
開店祝いに来たプクリポのポポルは、入口から奥まで続く花束の列を眺め、頬を引きつらせた。
最初の客は、真珠の首飾りをつけた人魚だった。人魚は恋人へ贈る花を探していたが、みるくが差し出したのは、情熱的な赤い花束、涼しげな水色の花束、なぜか食欲をそそるチョコ色の花束だった。みるくは朝食のアジの開きを思い出して腹を鳴らしながら、一つずつ効能を説明した。
「赤は愛、水色は海、チョコ色は小腹がすいた時に見る用なのら」
「花を食べてはいけないの?」
「食べたことがないから分からないのら」
「店主が一番信用できないね」
ポポルが帳面に『本日の売上・まだゼロ』と書くと、濡れた紙に墨がにじんだ。
その時、店の外から巨大なタコ魔人が現れ、八本の腕で花束を次々につかみ始めた。みるくは青い手袋を握りしめたが、赤の隣に緑、その先にベージュとワイン色が並ぶ店内では、どの花が盗まれたのか自分でも分からない。タコ魔人は五十四種類から一本ずつ抜き取り、頭の上に巨大な花冠を作った。
「待つのら! それは苦労して集めた花束なのら!」
「並べ方に物語がないから、わしが完成させてやるタコ」
「これは十三不塔なのら。バラバラすぎて、そろった瞬間に役満なのら!」
「それ、褒めているの?」
人魚が首をかしげた直後、花冠の香りでタコ魔人が盛大なくしゃみをし、墨を噴き出した。
黒い墨は店内を横切り、白い砂床に一本の曲がりくねった道を描いた。道は赤い花束から青、黄色、緑、紫へと続き、偶然にも五十四種類を巡る順路になった。みるくは洗濯物を干し忘れた時と同じ顔で口を開けたあと、すぐに入口の看板を書き直した。
「海底花束冒険コース、完成なのら! 順番に歩けば、最後にタコ魔人と記念撮影できるのら!」
「わし、店を荒らした悪者タコ」
「初日の呼び込み係に採用なのら」
人魚は笑いながら赤い花束を買い、ポポルは帳面のゼロを一へ書き換えた。脈絡もストーリーもなかった海底のお花屋さんには、墨臭い道と余計なおしゃべりと、頭の中がお花畑の店主による最初の冒険だけが、しっかり残った。

もうすぐ夏も終わるのら

さそう踊り

水中体験でもいかがですかめ

潮騒の音が聞こえますか?