五つの畑とゼロ本のオーロラ
みるくは薄桃色のしま模様の上着と短いズボンを着て、五番目の畑の前に立っていた。白い髪の両側には水色の羽飾りが揺れ、手には収穫したばかりの花が何本も握られている。周囲の木々は赤や黄色に色づき、湿った土からは雨上がりの匂いが立っていたが、欲しかったオーロラ色の花は一本も見当たらなかった。
「一号畑、オーロラなし。二号畑もなし。三号、四号、五号も……ないのら」
畑の番をしていた案山子は、頭に乗せた黄色い鳥をぐらつかせながら、縫い合わせた口で笑っているように見えた。みるくは念のため大きな葉を一枚ずつ持ち上げ、花の後ろや案山子の足元まで調べた。それでも出てくるのは小さな芋虫と、昨日落とした魚の形のクラッカーだけだった。
「五キャラで育てたのですよ。五倍頑張ったら、一本くらい咲いてもよいのではありませんか」
「畑は算数どおりにならないよ」
一号のみるくが、籠に入れた塩むすびを食べながら答えた。二号はじょうろを逆さにして残った水を一滴まで絞り、三号は帳面へ収穫数を書き込んでいる。四号は作業を始める前から木陰に座り、冷めた麦茶と卵焼きを交互に口へ運んでいた。
「四号、さっきから何もしていないのら」
「見守り担当です」
「卵焼きを食べているだけでは?」
「もぐもぐしながら見守っています」
みるくは五人分の帳面を並べ、土で汚れた指先で数を確かめた。種をまき、水をやり、肥料も与え、畑の前を通るたびに「オーロラになあれ」と声までかけたのに、結果は見事なゼロだった。鼻の奥がつんとして、みるくは袖で目元を押さえたが、しま模様の布には土がついており、頬へ茶色い筋が一本増えた。
「ぐすん。一輪でいいから欲しかったのです」
「でも、ほかの花はこんなに大きく咲いたよ」
一号が指した先では、白や水色の花がみるくの頭ほど大きく育っていた。風が吹くと厚い花びらが触れ合い、ぱたぱたと洗濯物のような音を立てる。以前、靴下を五足まとめて干した日に一足だけ風に飛ばされ、翌朝案山子の腕へ引っかかっていたことを思い出し、みるくの口元が少しだけ緩んだ。
「この花を売って、オーロラを買う手もあります」
「それでは畑を始めた意味がないのら」
「では、もう一度植えましょう」
「また五キャラで?」
「六キャラ目を作れば、今度は六倍です」
みるくは勢いよく顔を上げたが、すぐに帳面と五つのじょうろを見比べた。五人分の水やりだけでも、昨夜の夕飯だった焼き魚が冷え切るほど時間がかかったのである。みるくは採れた花を籠へ詰め、最後に土を軽く撫でた。
「六キャラ目は作らないのら。次も五人で挑戦します」
「では今夜は、収穫祝いですね」
「オーロラがなくても?」
「卵焼きには当たり外れがありません」
五人は畑の横へ敷物を広げ、塩むすびと卵焼きを分け合った。紅葉の隙間から夕日が差し込み、水色の花を一瞬だけ紫や桃色に染めた。探していたオーロラとは違ったが、みるくはその光をしっかり眺めてから、次の種を五袋注文した。