三つ目のいいねが来ない花屋
朝のみるくは、白地に金の刺繍が入った長衣へ着替え、背中に金色の翼をつけると、花束を並べた店の中央に立った。左右の棚には赤、青、黄、桃色の花束がぎっしり並び、新しい木の匂いに、昨夜買った花の甘い香りが重なっていた。何度も立ち位置を変え、いちばん楽しそうに見える笑顔で撮った写真を冒険日誌へ載せたが、翌朝になっても「いいね」は二つしかついていなかった。
「三つ目、まだ来てないのら」
そこへ遊びに来たプクリポのポポが、紙袋に入れた焼きたてのアップルパイをテーブルへ置いた。みるくは店の隅から丸椅子を運び、花束の購入額を書いた帳面を閉じると、その上に昨日洗った花柄の布巾を敷いた。バターと煮たりんごの匂いが広がっても、みるくの人差し指は日誌の更新ボタンを何度も押していた。
「壊れてないのら?」
「何が?」
「いいねのボタンなのら。二から動かないのら」
「押したくても、日誌を見つけてない人もいるんじゃない?」
「見つけてもらえないのも同じなのら」
ポポは返事に困り、パイの端を小さくかじった。以前なら五個や十個つく日もあったのに、最近は一個か二個で止まり、誰も押さないまま次の日になることさえある。みるくは、かわいい写真なら見てもらえると思って衣装を選び、面白い物語なら読んでもらえると思って、眠る前まで文章を直してきた。
「こんなに花を集めたのら。お話だって、何度も書き直したのら」
「うん。おいらは知ってるよ」
「でも、みんなは知らないのら」
「知らないことと、つまらないことは同じじゃないよ」
「数字だけ見たら、同じに見えるのら」
昼を過ぎても三つ目は来なかった。窓から差し込む光が花束の包装紙に反射し、赤いリボンの金粉を床へ落としていたので、みるくは竹箒を持ち出して、パイのかけらと一緒に隅へ集めた。掃除をしている間だけは更新ボタンを押さずに済んだが、箒を戻すと、また指が画面へ伸びた。
「もう日誌を書くのをやめたら、確認しなくて済むのら」
「やめたいの?」
「分からないのら。誰にも読まれないなら、書いていないのと同じなのら」
「でも、おいらは昨日の話を読んだよ。花束が夜中に宴会を始めるところ、笑ったよ」
「あそこを読んだ人が、一人はいたのら?」
夕方、ポポが帰ったあと、みるくは冷めた紅茶をひと口飲んだ。砂糖を入れ忘れた紅茶は渋く、昼に脱いだ金色の翼が椅子の背から半分ずり落ちていた。日誌の数字はまだ二のままだったが、みるくは新しい頁を開き、今日あったことを一行ずつ書き始めた。
「三つ目のいいねは、今日も来なかったのら。でも、二つは数字で、一人は顔が分かったのら」
書き終えるころ、花屋の外は薄暗くなり、黄色い花をつけた木が夜風に揺れていた。百個のいいねをもらう話より、三つ目を待ちながら冷めた紅茶を飲んだ話のほうが、今のみるくにはうまく書けた。公開ボタンを押したあと、みるくは画面を伏せ、残しておいたアップルパイを口へ運んだ。
「明日の朝まで、見ないのら。たぶん、三回くらいしか見ないのら」