オシロイバナと夏の忘れ物
外へ出ると、赤や白や濃い桃色のオシロイバナが、今が盛りとばかりに咲き乱れていた。夕方の風には土と青い葉の匂いが混じり、細い花びらへ鼻を寄せると、子どもの頃に嗅いだ化粧水に似た甘い香りがした。みるくは茶色い帽子をかぶり直し、橙色の上着の裾についたパンくずを払いながら、花の間をのぞき込んだ。朝食に食べたジャムパンの袋を鞄へ押し込んだままだったことを思い出し、あとで捨てようと考えていると、庭番のプクリポがじょうろを抱えて走ってきた。
「みるくさん、オシロイバナは夕方になると元気になるんだよ。朝寝坊じゃなくて、夕方起きなの」
「それなら、わたしと気が合いそうなのら。わたしも夜になるとハウジングを始めるからね」
オシロイバナの向こうには、青緑色の枠で囲まれた大きな温室が建っていた。みるくが扉を開けると、湿った空気が頬へまとわりつき、白いユリや桃色のバラを詰めた籠が床いっぱいに並んでいた。奥には先月植えた紫色の花も咲いており、葉についた水滴がランプの光を受けて小さく輝いていた。ところが中央の大きな花籠だけ、花が一輪抜かれたようにぽっかり穴が開いていたため、みるくは革の手袋を外して籠の縁を確かめた。
「昨日までは、ここにも白い花があったのら。誰かが持っていったのかな」
「ぼくじゃないよ。ぼくはお昼に焼きそばを食べてから、ずっとじょうろを洗っていたもの」
二人が床を探すと、白い粉のようなものが点々と温室の外まで続いていた。みるくは腰をかがめて指先で触り、それがオシロイバナの種から出る白い粉だと気づいた。跡をたどる途中、洗濯竿に干したままの白い靴下が片方だけ風に飛ばされ、低い木の枝へ引っかかっていたので、みるくは背伸びをして取り戻した。まだ少し湿っていて石けんの匂いが残っていたが、今は畳まずに鞄へ押し込み、再び白い跡を追った。
「花泥棒が、わざわざ道しるべを残すとは思えないのら」
「じゃあ、花が自分で歩いたのかな。ぼく、お化けなら先に帰るよ」
白い跡は、庭の隅に置いた古い木箱の前で途切れていた。蓋を開けると、中にはなくなった白い花と、黒く丸いオシロイバナの種が一つ入っていた。その種は、みるくが幼い頃に割って遊んだものと同じで、指で押すと中から白い粉がこぼれた。みるくは手の甲についた粉を見つめ、夏休みの夕方、祖母の家の前で種を集めたことを思い出した。
「盗まれたんじゃなかったのら。この花は、夏の忘れ物を届けに来たんだね」
みるくは白い花を籠へ戻し、黒い種だけを小さな巾着へしまった。温室を出る頃には空が薄紫色に変わり、オシロイバナは先ほどより大きく口を開いて、帰り道を囲むように揺れていた。家へ戻ったみるくは、冷めた麦茶と残りのジャムパンを机へ並べ、花粉で汚れた手帳に今日の出来事を書いた。
「夏が終わっても、忘れ物は消えないのら。見つけた人が大事に拾えば、次の夏までちゃんと残っているんだよ」