こっくり秋色、魔女みるくと茸の月夜騒動
夜の森は、昼間よりもずっと音が騒がしかった。みるくが一歩踏み出すたび、濡れた落ち葉が長靴の底でグズ、グズと妙な水音を立てて沈む。焦げた薪のような匂いに混じって、木の上からはヤマブドウの甘酸っぱい香りが漂い、冷たい夜風が黒と赤の魔女服の裾を派手にめくり上げていた。みるくはお母さんが編んでくれた毛糸のセーターを服の下に着込んでいたが、首元がチクチクと顎を刺して落ち着かない。袖口を引っ張りながら、みるくは台所の机に置きっぱなしの冷めた麦茶と、鍋に残したカボチャスープの表面に膜が張っていないか心配になった。
「ねえ、ティンク。本当にこっちで合っているのら?」
頭の上で、妖精のティンクが金色の燐光をまき散らしながら忙しく翅を動かした。その風圧で、色づいたカエデの葉がみるくの頭飾りのリボンへばらばらと落ちてくる。
「合っているわよ。月光茸は秋の満月にしか採れないんだから。迷っている暇はないわ!」
「でも、同じ木の前を三回も通った気がするのら」
「それは木が歩いて場所を変えているからよ!」
「森の木が歩き回るなんて聞いてないのら!」
みるくは驚きながらも、大木がのそのそと根を動かす隙を突いて駆け出した。着地した瞬間に右足が泥へ沈み、長靴の中に冷たい泥水がじっとりと浸入してきた。靴下の湿り気に顔をしかめ、帰ったら手洗いで洗濯しなきゃとため息をついたが、昼間に宿屋の前で聞いた子供の辛そうな咳を思い出し、薬の材料を諦めるわけにはいかないと歩みを速めた。
茂みを抜けた草地の中央に、みるくの背丈ほどもある青白い茸が丸い傘を広げていた。甘い焼きリンゴの匂いが立ち込めるなか、軸に触れて耳を澄ますと、『残して……子供たちが生まれるの』と消え入りそうな声が胸に響いた。根元には小さな茸たちが寄り添っている。
「この茸、子供のためにここに残りたいって言っているのら」
「でも、それじゃ薬が作れないわ!」
ティンクが慌てて舞い上がった拍子に、翅が傘の斑点に触れてしまった。茸が激しく震え、黄金色の胞子が煙のように吹き上がると、地面から無数の小茸たちが目を覚まして走り出した。みるくの帽子へ飛び乗り、ティンクを追いかけて跳ね回る。
「わあぁっ、茸が走って追いかけてくるのらー!」
みるくはポケットのおやつの炒り栗を放り投げた。茸たちが栗へ一斉に駆け寄り、落ち着きを取り戻すと、巨大な茸は礼を言うように銀色に輝く傘の欠片を一枚、手のひらへ落としてくれた。
朝焼けに染まる台所へ帰り着き、泥だらけの靴下を脱いでストーブの前に干した。鍋に火を入れると、温まったカボチャスープの湯気と甘い匂いが広がり、ティンクが木の匙を握りしめて身を乗り出した。
「走ってお腹が空いたから、二杯食べるわよ!」
「おかわりは、町の子供たちへ風邪薬を届けてからにするのら!」
二人は顔を見合わせて笑い、熱々のスープをすすった。

「深いボルドーと黒に、金の縁取りを施した魔女服」

みるくが一歩踏み出すたび、収穫の秋を思わせる深いボルドーの魔女服が揺れた