月夜のローヌ薄桃花
秋の夜、みるくは黒と赤の小袖を着て、自宅の庭へ出た。昼間に植えたストルティアの桃色花とローヌ薄桃花が、三日月の光を受けて揺れている。秋桜に似た花びらから甘い香りが漂い、土を踏む長靴の下ではコオロギが鳴いていた。夕食に食べたきのこグラタンの匂いが袖に残っていることに気づき、みるくは鼻を鳴らした。
「きれいに咲いたのでしゅ。明日はフレンドを呼んで、お月見をするのでしゅ」
そのとき、ローヌ薄桃花の奥で桃色の光が瞬いた。みるくが葉をかき分けると、手のひらほどのプクリポが倒れていた。若草色の帽子は泥まみれで、背負った革袋には小さな穴が開いている。みるくは昼間に干し忘れた靴下のことを思い出したが、今はそれどころではないと首を振った。
「大丈夫でしゅか。おなかが空いているのでしゅか」
「花の精霊が、さらわれた……。このままでは、夜明けに全部枯れてしまう」
みるくは家からミルクスープと丸パンを持ってきた。プクリポは湯気に顔を近づけ、三杯も飲んでから、森に住む花喰いモグラの話をした。精霊は庭の北にある洞窟へ連れ去られ、桃色花の力を宝石へ変えられようとしているらしい。みるくは食器を水桶へ浸け、愛用の両手杖を握った。
「せっかく咲いたお花を食べるなんて、許さないのでしゅ。案内してください」
二人が洞窟へ入ると、湿った岩から冷たい水が落ち、奥では巨大なモグラが桃色の光球を抱えていた。みるくは飛んできた土の塊をかわし、杖からメラゾーマを放った。焦げた毛の匂いが広がると、モグラは光球を投げ捨てて逃げ出した。みるくは追いかけようとしたが、帽子についた蜘蛛の巣を払うプクリポを見て足を止めた。
「逃げられたのでしゅ」
「でも、精霊は助かったよ。追いかけるより大事だろう?」
夜明け前、庭へ戻された精霊が羽を広げると、ローヌ薄桃花は一斉に開いた。桃色の花びらが朝風に舞い、ストルティアの花々も負けじと茎を伸ばしている。みるくは泥だらけの小袖で丸パンの残りをかじり、冷えたミルクスープを飲んだ。庭仕事も冒険も腹ごしらえが大切だと思い、隣に座るプクリポへパンを半分渡した。
「今夜のお月見にも来るのでしゅ。きのこグラタンを焼きますよ」
「三杯食べてもいい?」
「お花を守ったご褒美に、四杯まで許すのでしゅ」