十三年目の鉄の相棒
九月の朝、花守かおるこは薄い小豆色のカーディガンを羽織り、古いパソコンの前へ座った。庭では白い秋明菊が雨粒を揺らし、机の端では飲みかけの紅茶が冷めている。画面には、十三年間働いてきた相棒の能力がずらりと表示されていた。
「メモリ十六ギガ、空きは十ギガ以上。まだ戦えるじゃない」
パソコンは返事をしなかったが、青いランプを規則正しく瞬かせた。ところが、画面の奥から黒い煙が噴き出し、空き容量を食べる魔物ギガクウリョウが現れた。魔物は四十八ギガの袋を振り回し、散らかった机の領収書まで吸い込み始めた。
「待ちなさい。それは電気代の領収書よ。捨てたら困るの」
かおるこはエレコムのゲームパッドを握り、アストルティアへ飛び込んだ。黄色い秋桜が咲く街道を走ると、革鎧を着た少年が焼き芋を半分に割って待っていた。湯気には蜜の匂いが混じり、空腹を思い出したかおるこの腹が小さく鳴った。
「勇者様、その鉄の箱は古すぎます。今すぐ新品を買いましょう」
「古いことと、使えないことは同じではないわ。お金は魔法で湧いてこないのよ」
二人はギガクウリョウの洞窟へ入り、不要な画像と古い更新ファイルを宝箱から選り分けた。闇雲に消せば大切な原稿まで失うため、かおるこは一つずつ名前と日付を確かめた。背後では洗濯機の終了音が鳴ったが、今は立ち上がれない。
「空き容量、四十八ギガ以上を確保!」
「次は画質よ。最高ではなく、標準か低めにするの」
ギガクウリョウがしぼみ、街道に夕日が戻った。四コアの老兵と一ギガの古いグラフィックボードは、最新の鎧ではない。それでもメモリ不足はなく、動作が安定している間は冒険を続けられると分かった。ただし公式から新しい対応環境が示されたら、そのときは再び点検が必要だった。
「では、買い替えなくてもいいのですか」
「今すぐはね。急に止まる、画面が乱れる、何度も落ちる、その三つが増えたら考えるわ。それまでは毎月少しずつ、次の相棒のために貯金よ」
現実へ戻ったかおるこは、冷めた紅茶を一口飲み、栗入りの小さな饅頭を割った。画面の向こうでは仲間たちが手を振り、十三年目の鉄の相棒も静かにファンを回している。かおるこは買い替え広告を閉じ、ゲームパッドの決定ボタンを押した。
「さあ、今日も行きましょう。動くうちは、あなたも立派な冒険者よ」