9月17日
牧水忌
萩
女郎花
薬 掘
虫時雨
葉鶏頭
露
水澄む
新 涼
秋 祭
秋 袷
千 振
秋 蚕
蟋 蟀
初 潮
敬老の日
寝待ち月
秋
寝待ち月と、みるくの花屋敷
九月十七日、牧水忌の朝、みるくは白地に金糸の入った長衣を着て、フレンドのこむぎを花屋敷へ招いた。赤や桃色の花籠が廊下の両側へ並び、奥では萩と女郎花が風に揺れている。庭のレモンの木には黄色い実が灯籠のように下がり、開け放した窓から蟋蟀の声と湿った土の匂いが入ってきた。
「見て、秋祭りの飾りつけ! 私、一人で全部やったのよ」
「すごい。でも、この白い花籠、少し通路へ出すぎてない?」
「平気だよ。私は毎日ここを歩いているんだから」
みるくは胸を張った途端、長衣の裾を花台へ引っかけた。白い鉢が傾き、こむぎが両手で受け止めたものの、中の水が二人の靴へ降りかかった。冷たいしずくが靴下まで染み込み、みるくは鼻の頭を赤くして、助けてくれたこむぎをにらんだ。
「だから触らないでって言ったのに!」
「僕、まだ触ってないよ。みるくが自分で蹴ったんだよ」
「……今のは鉢が急に出てきたの」
「鉢は歩かないと思う」
こむぎは濡れた靴を脱ぎ、赤い短衣の袖で床を拭こうとした。みるくは余計に腹を立てたが、袖口に葉鶏頭の赤い花びらが貼りついているのを見て、台所から布巾を取ってきた。ついでに冷めた焼き芋と薬草茶を運ぶと、こむぎは焼き芋の焦げた皮を丁寧にむき始めた。
「半分あげる。端っこの甘いところも」
「さっき怒鳴ったお詫び?」
「違うよ。敬老の日が近いから、年上をいたわっているの」
「僕、みるくより三日早く始めただけだけど」
二人は靴を窓辺に干し、花台を壁際へ運び直した。濡れた床には露のような水滴が残り、庭の水鉢は夕暮れの空を澄んで映している。みるくは萩色の細いリボンを花籠へ結び、余った一本を手首へ巻いた。
夜になると、二人は縁側へ座って寝待ち月を待った。虫時雨の向こうから秋祭りの笛が聞こえ、こむぎの膝には食べかけの焼き芋、みるくの手には次の冒険先を書いた日誌がある。月はなかなか昇らなかったが、待つ時間まで冒険なのだと、みるくは萩色のリボンを揺らして笑った。
「次は、初潮を見に海へ行こうよ」
「その前に、濡れた靴を忘れないでね」
「大丈夫。忘れたら裸足で走るから!」
「それを大丈夫とは言わないんだよ、みるく」