みるくの冒険日誌 オリハルコン婆、花屋を建てる
みるくは白い花柄のエプロンドレスを着て、庭の中央に立っていた。赤いバラ、青いガーベラ、黄金のユリを三十本ずつ重ねて作った花束が、五十四種類も柵の内側に並んでいる。窓辺には昨夜のコーンスープが入ったままのカップがあり、朝露にぬれたコスモスの匂いと、冷えた牛乳の匂いが一緒に漂っていた。
「これだけあれば、世界一のフラワーショップを開けるよ。勇者だって、魔王を倒した帰りには花束くらい買いたいでしょう」
土地の前へ荷馬車が止まり、大工が大きな木箱を降ろした。箱の中に入っていたのは、Mサイズの華やかな家キットで、組み立てれば大きなショーウィンドウのあるマガザンになるという。フラワーショップだけでなくロッキンマートにも改装できると聞き、みるくは両手を上げた。
「やったー。ついに私の土地へ、お店が建つ!」
「その前に聞くけど、玄関はどっち向きにするんだ」
「もちろん、お日様の昇るほう」
「そっちは崖だぞ」
「お客さんには、空を飛んできてもらえばいいのよ」
みるくは勢いで建築を決定したが、完成した玄関は崖の先を向いていた。最初の客になった鎧姿の戦士は扉を開けた途端に足を滑らせ、下の浜辺まで転がっていく。みるくは青いじょうろを抱えたまま大工へ詰め寄った。
「どうして止めてくれなかったの!」
「三回止めた。あんたが『花屋には常識より夢が必要なの』と言ったんだ」
「そんな余計なこと、言ったかしら」
「立派に言ってたぞ」
昼休みには、二人でアジの開きと大根おろしを食べた。大工は焦げた尾を箸で折りながら、ショーウィンドウには白い花を置くと夜でも目立つと教えてくれた。みるくは味噌汁へ七味を入れすぎてむせたあと、しばらく考えて建物を反対向きに建て直した。
「今度は道に面したね。ところで、おやつのお饅頭は残ってる?」
「さっき、あんたが二つ食べた」
「建築はお腹がすくのよ」
夕方、店の看板へ灯りが入った。ガラス越しに五十四種類の花束が輝き、赤いダリアと黄色い菊が、石畳を歩く冒険者たちを振り向かせる。画面の隅には、お買いものランク「オリハルコン」と、五千九十六Expの文字が光っていた。
「オリハルコン……。私、花屋になる前に、買い物の魔王になっていたのね」
それでも最初の花束が一つ売れると、みるくは青いじょうろを胸に抱えて笑った。閉店後、そのじょうろを店先へ置き忘れたことには気づかない。翌朝、じょうろの中には差出人不明の小さな種が一粒入っており、次の冒険は、その種を植えるところから始まることになった。