私の名前はシノ
最近また
アストルティア放浪の旅を再開しました
「これまでも何度か旅をしたり、
しばらく同じ居場所で生活したりを
繰り返してきたけれど…」
「ちょうど今また、新しい旅を
はじめたところなんだ。
……欲しいものを見つけるために。」

私が今日たどり着いたのは、
丘の上にぽつんと建つ
ちいさな鐘を中心にした村だった。
村人たちは穏やかで、
どこか達観したような笑みを浮かべている。
『旅人さん、よくいらっしゃいました。
ここは《願いの鐘》の村です』
老人が話しかけてきた。
『この鐘を一度鳴らせば、
どんな願いでも叶うのですよ』
私はとても驚いた。
そんなうまい話があるのだろうか…
『ただし、願いが叶うのは
村の中にいる間だけです。
村から出てしまえば、鐘の力は届きません』
村人たちは皆、幸せそうな顔をしていた。
誰もが願いを叶え、
もう何も求めていないように見える。
私は鐘を見上げた。

古びた鐘は風に揺れ、
かすかに音を立てている。
『…あなたも鳴らしてみては?』
老人が優しく促した。
私はしばらく考えた。
「ここで私の願いが叶うのなら、
旅を続ける必要もなくなるのかな…?」
けれど、何かが引っかかった。
「願いが村の中でしか効果がないということは… …村から出たらどうなるのですか?」
老人は微笑んだまま答えた。
『願いを叶えた者は…
もう村から出ることはありません。
すでに満たされているのですから
…出る必要もないでしょう?』
私は背筋が冷たくなるのを感じた。
村人たちの穏やかな笑顔に感じていた
違和感の正体に気づいた。
「……私は、やめておきます」
そう言って村を出ようとすると、
老人は少しだけ寂しそうに言った。
『旅人さん。願いを叶えなかったこと、
いつか後悔しますよ。
叶えられるのに叶えなかった願いほど、
人を縛るものはありませんから』
私は振り返らずに歩き続けた。

村を出てすぐに
風に揺れる鐘が…小さく鳴った気がした。