アストルティアの花と風景を紹介する連載記事を書いています。ストーリーに沿って、初めて出会う植物や風景についての記事を書いていきます。
今回は、エテーネ王国領、王都キィンベル城下町について記載していきます。

辺境とも称されるバントリユ地方を出て、王都キィンベルのあるエテーネ王国領へ。
山脈を穿つ隧道を抜ければ、風景は一変しました。
足元の緑の濃さは段違い。水量の豊かな川もあり、畔には堂々と枝を広げた大樹が並木のように連なっています。点在する池には、巨大なワサビに似た固有種らしい植物が紅色の葉を天に掲げ、他にも草原のあちこちには、チューリップによく似た大きな桃色の花が見られます。
そうした固有種も見られる一方、どうにも見覚えのある植物も沢山見つかることに気がつきました。
ざっと見渡しただけでも、主にプクランド大陸でよく見る花が何種類もあるのです。
どうやら、エテーネ王国とアストルティアは、この時代には交流していたのだろうと、馴染みの草花を見た私は確信を持ち、実際に王都に入って見れば、人間以外にもアストルティアの各種族も少数ながら王都の民として生活していました。
私は王都の入口で衛兵に誰何されましたが、何故か来訪を予想されていたようで、あっさり通行を許可されました。
その時は、誰かが先触れでもしたのかと思い、気に止めなかったのですが。

砂時計のような形の大きな絡繰を中央に配した見事な花壇のこの先の、王国軍司令部の門前で、たまたま聞いた会話にも出てきた、「指針書」という単語は、そういえば王都の入口でも聞いていたなと思い、取り次ぎの人に聞いてみました。
王国軍司令部への取り次ぎをしてくれたのは、王国軍の副司令官でしたが、王国の民ではない私に、概要を説明してくれました。
曰く、王国民には「時の指針書」なる本が宛がわれ、それには各々の行動の指針が記されているとのこと。その内容は、王が時見の力を以て近未来を予測し、随時更新するのだとか。
民全ての指針を、王が管理しているのでしょうか。
事実であれば、途方もない作業量。俄には信じがたい話でしたが。
民はより良き未来を迎える為、実際に指針書に従って日々を暮らしているようです。たまたま話を聞いたとある邸宅のメイド達は、空に浮かぶ邸宅が墜落する災難に遇いながらも、指針書に従って最悪の結果には至らなかったと言っていました。
ドミネウス邸と同様、複数あった空飛ぶ邸宅は、どうも同時期に墜落したようで、何やらきな臭い気配を感じました。
副官セオドルトによれば、軍司令官クオードは、そうした諸々の案件を抱えて現在は不在。辺境警備隊詰所での案件の聴取のために暫く滞在して欲しいと言われました。
滞在のための宿を手配して貰った私は、一先ずそこに向かったのでした。

宿には、個性的な意匠の盛花が飾られた豪華なステージを備えた酒場があり、舞踏や軽業で盛り上がっていました。
そして、満を持して登場してきた歌姫が歌い始めた瞬間は、忘れられないものになりました。
前評判とは大きくかけはなれた…処ではない、新手の特殊攻撃かと思いたくなる程に、…壊滅的な歌だったのです。
客の大半は逃げ出し、酒場での饗応は大失敗に終わってしまいました。(酒場の主人の指針書には、「誰にも歌わせてはならない」と書いてあったようです。指針書の精度に驚かされました。)
そしてあまりの酷い歌に怒って歌姫に詰め寄る者も。そうした客に乱暴を働かれそうになっていたところを庇ったことで、私は彼女、歌姫シャンテに感謝され、自宅に招待されたのでした。
クオードからの呼び出しがあるまでは、どのみち王都から離れる訳にはいきません。シャンテの家への訪問は、彼を待つ間のほんの些細な行動のつもりでした。
次回は、再び王都キィンベル城下町、エテーネ王国領についての記事を書く予定です。