そろそろ12時を廻るかという頃。
私達はお弁当を買って、ピクニックへと出発した。
「うわー…。」
「これは…。」
北門を出た瞬間、一面に広がる桜に思わず息をのむ。
のどかな風景の中、絶えず花びらが舞い散っている。一瞬、天国に迷い込んだかのような感覚になる。
あの、はしゃぎたがりのシュピですら言葉を失い、その場で立ち尽くしている。
列車の窓からも見ることは出来たが、実際に地面に降り立って見る桜は、より荘厳で美しかった。
「い、いこうか。」
「う、うんー。」
私達は気を取り直し、街道を進んでいった。
ここ、カミハルムイ領北は見た目に反して強い魔物が多い。忌まわしき記憶の眠る旧都の廃墟が近いのもあって、地元のエルフ達でも用がある時意外は滅多に立ち入らない場所だったそうだ。
ところが近年、エルフの研究者ハネツキ博士が手付かずのこの地を実験場にし、一年中咲き続ける事の出来る桜の木を生み出すことに成功する。
この地は桜の木で埋め尽くされ、その光景は多くの旅人を虜にした。
かくして彼女は、カミハルムイ観光ブームの火付け役となったのだった。
「ハネツキ博士って、こんな所でも活躍してたんだなぁ。凄い人だな。」
私はガイドブックを読みながら感心する。
「あんな美味しいお菓子もつくれるんだもんねー。すごいよねー。」
「お菓子を作ってるのは職人さんなんだけど…。」
それでも様々な分野に多大な影響を与えているのは確かで、シュピのいう事もあながち間違ってはいない。
「友達になったジュセもすごいよねー。あれかなー。このままいけば、タマのお菓子ってやつー?」
「玉の輿、ね。というか女同士だし。結婚できるわけないじゃない。」
「えへへー。わかんないよー。愛にかたちなんてないんだからー。」
シュピは無邪気に笑って言う。
「もしー…。」
「ん?」
「もし、これからー。ジュセが誰か他の人といっしょになってもー。シュピのこと、ずっとおいてくれるー?」
突然の質問に、私は立ち止まる。
数秒間、沈黙の時間が流れる。
こういう間は苦手だ。
ただ一言、おいてあげると言えば済む事なのに。
何でだろう。それがなかなか出来ない。
「だめー?」
シュピが沈黙を破り、私に聞く。
「…はあ。そんなの、だめに決まってるじゃない。」
ため息をつき気分を落ち着かせ、再び歩き始める。
「危なっかしいシュピを置いといて、誰かと一緒になるなんて出来っこないよ。」
「ジュセー…。」
「そうするくらいなら、私はシュピとずっと一緒に居る。」
ふいに、後ろからシュピが抱きつく。
「だいすきー。」
「よし、あそこが良いかな。」
私達は、大きな桜の木がある見晴らしの良い小さな丘を見つけ、そこでお弁当を食べる事にした。