昨日の深夜の出来事だ。
玄関ドアを開ける音で、ふと目が覚めた。
横を見ると、布団にお母さんの姿が無い。
「どうしたんだろう…。」
私は気になり、シュピを起こさないように外へ出た。
お母さんは縁台に座り、湖を眺めていた。
雨は、日中に降りつくしてしまったのかすっかり上がり、やや残っている雲の隙間からはお月様が顔を覗かせていた。
「あら、ジュセ。もう体は大丈夫なの?」
お母さんが私に気づく。
「うん。まだちょっと体が重いけど。大した怪我もないし。」
私は伸びをして、大丈夫だという事を示した。
「隣、いいかな。」
「どうぞ。」
私はお母さんの横に座った。
「…色々心配かけてごめんね。」
私は頭を下げる。
「今に始まったことじゃないわ。でも…今回の事は、さすがに、ね。」
お母さんは私の手を握る。
少し震えているのは、決して寒さのせいではなかった。
「ねぇジュセ。本当の事を教えて。この一年間…一体何があったの?」
「……。」
「お願い、ジュセ。」
私は黙ったまま立ち上がり、玄関ドアを少し開けてシュピが寝ているのを確認すると、再び縁台に座った。
そして頭上の月を見上げながら、ゆっくりと話し始めた。
「…最後に聞くけど。どうしても考えを改める気は無いのね?」
じっと私の目を見つめ、お母さんは続ける。
「このままいくと、あんたはきっと辛い思いをする。心に一生消えない傷を負う。下手したら、今回どころじゃ済まないかもしれない。それでも、あんたは耐えられる?」
「うん。私には、今を捨てる事の方が余程耐えられそうにないから。」
私は目をそらさずに、言い切った。
「そう。分かったわ。」
私の答えを聞くとお母さんは縁台から立ち上がり、湖の前へと移動した。
私もそれに続く。
「お母さん、今日帰るわ。」
「…そっか、寂しくなるね。」
「お世辞でも嬉しいわよ。」
決してお世辞なんかでは無かった。
喉元が痛くなる。涙がこみ上げて溢れそうになるのを、上を向いてしのぐ。
「色々あんた達の生活を引っ掻き回して、ごめんなさい。これからも良き生活が続くことを、願ってるから。」
「…うん。ありがとう。」
「あとね。」
急に、お母さんが私を抱きしめる。
「約束して。全部終わったら、必ず家に帰って来るって。」
「…うん…うん。」
「あなたの事を大好きなのは、あの子だけじゃないんだから。」
「…分かってるよっ。」
私達はしばらくの間、互いの肩を濡らしあった。