今日は仕事が終わった後、書店へ足を運んだ。
普段私は本を読む方ではないが、どうしても欲しい本があったのだ。
アズランの小さな商店街の一角に、その書店はあった。
かなり古い木造の建物で、ところどころ木が剥げ落ちている。
入口の横開きのドアがなかなか開かない。定休日かと思い引き返そうとしたら、エルフの老婆がひょこっと現れて、
「いらっしゃい。」
そう言ってドアを少し持ち上げて横にスライドさせると、軋んだ音をたてて開いた。
「・・・どうも、ありがとうございます。店主さんですか?」
私は老婆に尋ねた。
「何か用かい?」
老婆は必要な事だけをぶっきらぼうに聞いてくる。都会の馬鹿丁寧な店員とは正反対だ。
「は、はい。料理の本とか、売ってないかなって。」
「こっちだよ。」
老婆に導かれ、小さな店舗の奥へと進んだ。
老婆に案内された本棚には、料理の本がたくさん並んでいた。
しかしいざ目の前にすると、どれを買っていいのか分からない。
本を手に取ってぱらぱら捲ってみるものの、専門用語や聞いたことのない食材の名前が羅列してあり、頭が痛くなってきてそっと本棚に戻す。
それを何回か繰り返した時、
「どんなのがいいんだね。」
「わっ!」
急に背後から声を掛けられ、びくっとなる。老婆にずっと見られていた事に気が付かなかった。
「い、いや。初心者向けの料理本とか、あればいいなーって…。」
「ほれ。」
老婆は本棚からスッと一冊の本を取り出すと、私に手渡した。
ページを捲ってみると、誰もが知っている定番料理の作り方が、分かりやすくて可愛らしい図解付きで載っていた。
「あ、ありがとうございます。これにします。」
「1200ゴールド。」
購入を決意するやいなや、老婆は手をさし出して価格を提示した。
「は、はい。」
「まいどあり。また来な。」
老婆はお金を受け取ると、さっと店の奥へと消えて行った。
私は狐につままれた気分になってしばらくその場に立ち尽くしていたが、ふと本の重みに我に返って、店を出た。
家に帰ると、今日もシュピは寝ていた。
テーブルに突っ伏して、みっともなく涎を垂らしている。
私はシュピにそっとタオルケットを掛けると、料理の本を開け、エプロンをしてキッチンに立った。