私は今まで料理したことなど一度も無かった。
やっていなくても、向いていないという事はハッキリと分かる。
しかしだからといって、このまま手を出さないでいる訳にもいかない。
私は深呼吸して、過熱したフライパンに卵を割って落とした。
――ジューッ・・・
加熱具合がちょうど良いのか、白身が綺麗に形成されていく。
黄身は半熟のまま残しておき、白身にまぶして食べると美味しいのだ。
目玉焼きはシュピがよく作ってくれたし、ベストな形は分っているつもりだった。
料理本にも難易度☆1として紹介されている、超初心者向けの料理なので私にもできるはずだ。
どちらかというと朝食のメニューだが、初心者ということでそこは勘弁してもらおう。
「よし、そろそろいいかな。」
私は皿を用意し、綺麗に焼けた目玉焼きを移し替えようとした。
「・・・あれ。」
白身がフライパンにこびり付いて、取れない。
料理箸で白身とフライパンの境目を擦って剥がしていこうと試みるも、うまくいかない。全体がべったりとくっついているようだ。
「くっそー・・・あっ!」
むきになって力を入れすぎたせいか、箸が滑って白身と黄身を貫通してしまった。
液状の黄身がフライパンに広がってゆく。それはまるで目玉焼きの血のようだった。
「そんな・・・ここまできたのに・・・。」
私は肩を落とした。
「・・・まだだ!次!」
落ち込んでいる暇はない。気を取り直して、私は次の卵に手を出した。
「あー、ごめんジュセー!またねすごしちゃったー。いまから、ごはんつくるー!」
シュピが目覚めた。
「お、おはよう。いいよ、もう作ったから・・・。」
「えー、ジュセがー!?なんでー!?」
シュピが驚きの声をあげる。
「た、たまには良いかなと思って。シュピも、毎日大変だしね・・・。」
「そっかー、ごめんねー。で、なにつくってくれたのー?」
「・・・はい。」
私はテーブルに焦げたスクランブルエッグを並べた。
「これはー・・・。」
「あはは・・・やっぱり私にはダメみたいだね・・・。」
私は自分の無力さを呪った。
「おいしーー!!」
「へ?」
意外な感想に私は固まった。
「すごいよジュセー!はじめてなのにこんなおいしくつくれるなんてー!」
シュピは頬をふるふる震わせて感激していた。
「そ、そう・・・?」
「うんー、しあわせー!」
慰めで言っているようには見えない。
信じ難いが、もしかしたら何らかの化学反応が起きて、奇跡的な味になったのかもしれない。
「そっか・・・良かった!それじゃ私も頂きます!」
私は安心して、卵を口に運んだ。
「ぶ!!」
「ねージュセー・・・。だいじょうぶー?」
ぐったりする私に、心配そうにシュピが声を掛ける。
「・・・それはこっちが聞きたいよ・・・。」
美味しく食べてくれるのはいいが、身体に悪いのは間違いない。
やはり精進しなければ。
しかし道は果てしなく遠そうだった。