今日も討伐を終え、私はマダラキさんの元へ報告に向かった。
昨日の事があるため、なんだか足が重い。
「おう、ジュセ。」
マダラキさんは変わらぬ様子で挨拶した。
「お、お疲れ様です。」
いちいち気にし過ぎなのかもしれない。
私は普段通り討伐の結果を報告すると、報酬を受け取った。
「…昨日は悪かったな。」
振り返ってその場を立ち去ろうとした時、マダラキさんは謝罪した。
「! いえ、こちらこそ。気の利いたことも言えず…。」
私は慌てて向き直った。
「慰めが欲しくて話した訳じゃねぇから、心配すんな。…でも、なんかスッキリしたよ。ありがとな。」
マダラキさんはそう言って、私に手を差し出した。
その時の表情は晴れやかで、いつもの気だるそうな雰囲気は微塵も感じられなかった。
私は暫くぼうっと見とれていたが、より一層差し出された手にはっと我に返り、慌ててて握り返した。
「この後もさ、ちょっと時間いいか?俺、もうちょいで仕事終わりだからさ。」
「…はい。」
私達は喫茶店で会う約束をし、一度別れた。
「…実はさ、俺。そろそろこの仕事を引退しようかなと思ってるんだよ。」
マダラキさんはアイスコーヒーをストローで掻き混ぜながら、ぽつりと呟いた。
「えっ…どうして?」
突然の告白に、私は聞き返した。
「アイツ…ナギはもう居ねぇが、守る奴が居なくなったわけじゃねぇ。他人からは偏屈婆でも、俺にとっちゃ大事な母親がまだいるんだ。」
コーヒーを一口含んで、続ける。
「母ちゃんには今まで散々迷惑掛けてきたからな。何かあって事故死でもしたら、借りを返せねぇ。俺はそんなのは嫌なんだよ。」
私はオルフェアのお母さんの顔を思い浮かべた。
和解は出来たものの、"借り"を返せたわけではない。それどころか、今も膨らむ一方だ。
私も、いつか返せる日が来るのだろうか。そんな事を考えながら話を聞いていた。
「引退したらあのオンボロ書店を継いで、落ち着いたら嫁でも探して…ぼちぼちやっていくつもりだよ。…ジュセ、アンタはどうなんだ?」
「私もいずれ、そうしたいとは思います。けど今は…出来ません。」
マダラキさんからして見れば、私は本当に恵まれている。
私も同様に大切な存在を守りきることが出来なかった。しかし、まだ生きているのだ。
悲しませないように最善の道…引退し、新たな生き方を選択するのが道理だと思うだろう。
だが、もし時間が限られているとしたら?
環境の変化は、必ずしも幸福をもたらしてくれるとは限らない。不幸になる可能性だって高い。
それならば時間切れまで、この安定している現状を維持する方が良いのではないか。
私はそう考えるのだ。
「そうか。ま、考え方はそれぞれだからな。」
マダラキさんは特に深入りする事なく、納得してくれた。
「今まで色々、ありがとうございました。楽しかったです。また、お店に伺いますね。」
「おう。いつかもっと開放感のある店にして見せるぜ。」
今日はお互いにスッキリとした気持ちで別れる事が出来た。
私はそのまま、帰路についた。
「ジュセー!ごはんー!」
玄関ドアを開けると、シュピがおかえりも無しに飛びついてきた。
「ただいま。もう、夕食はシュピが作るんじゃなかったっけ?」
「えー、そうだったっけー。」
私はため息をついてシュピを離すと、仕方なく着替えてエプロンをしてキッチンに立った。
だが、今日はなんだか気分が良い。少し難しい料理でも出来そうな気がする。
本のレシピの難易度とにらめっこし、私はあの料理を作ることにした。
「はい、2人前あがりっ。」
「わー、オムライスだー!」
ここに越してきた頃、シュピが初めて作ってくれた思い出の料理だ。
「いただきますー!はふはふ…おいしー!」
嬉しいが、シュピの美味しいはまだ安心できない。
私はおそるおそる、オムライスの端のほうを口に運んだ。
「…うん、これはいける!」
あの時のオムライスには到底及ばないが、ほぼ予測通りの味だ。
目立った失敗もしていないし、成功と言っても問題ないだろう。
「ジュセ、ほんとじょうたつしたねー。」
シュピが真っ赤な口をして私をほめる。
「ありがとう。…ぷっ、シュピ。もうちょっとお上品に食べてよ。」
私はシュピの口を拭う。
「あー、ごめんー。もったいないねー。」
シュピは散らばったご飯粒を拾って口に入れようとする。
「あ、ちょっと。汚いって。」
私はシュピより先に拾い集め、ごみ箱に捨てた。