日もだいぶ傾いてきた頃。
私は家の中でシュピの着替えを手伝っていた。
「へんなのー。」
エルフの伝統衣装"浴衣"に身を包んだシュピは、着慣れないせいか少し落ち着きがなかった。
金魚の柄がもそもそと動いて、とても可愛らしい。
背の高いエルフなどが着ると大人っぽさが引き立つが、シュピが着ると逆効果だった。
まぁ、他者の事は言えないが。
「よし、シュピ。行こうか。」
「うんー!」
私も浴衣に着替えると、シュピと一緒にお祭りの会場、庭へと出た。
夕方の風が心地よい。
浴衣の通気性が良いのもあって、エルトナの自然を全身で感じる事ができる気がした。
日はいつしか沈みかけていて、辺りは薄闇に包まれようとしていた。
会場は、安上がりだが一応お祭り感は出せたつもりだ。
一番目をひくのは、やはり提灯だろう。これは私とシュピの合作だ。
町で白い提灯を買ってきたのだが、どうも寂しいという事で2人でスライムの顔を書いたのだった。
灯篭や犬の石造は、家の近くの廃寺院に放置されていた物だ。
バチが当たらないか少し心配だったが、神様も、哀れな私達なら許してくれるだろうという結論に至り、頂戴してきた。
かなり重かったが、シュピの力も借りてなんとか運び込む事が出来た。
あとは家にあったテーブルや椅子を並べて、お祭り会場の出来上がりだ。
「それではこれから、お祭りをはじめまーす!」
私は縁台に上り開会の挨拶をすると、提灯に明かりをともした。
「かわいいー!」
薄闇の中に現れたスライム達を見て、シュピは歓声を上げた。
顔が崩れていたり色が剥げていたりする物もあるが、中々いい雰囲気だ。
会場のお祭り成分の6割くらいは、この提灯によってまかなわれていたと思う。
「さーてと、お祭りと言えば!」
私はシュピに問いかけた。
「ごはんー!」
「あはは、言うと思った。おいで、メニューの中から、すきなの作ってあげるよ。」
私は出店に見立てた家の中のキッチンに立った。
焼きそば、カレー、フランクフルト、焼き鳥、フライドポテト…。
私はこの日のために、色々と作れるようにしておいた。
「これーっ!」
シュピは私お手製のメニューの絵を片っ端から指差していった。
「ちょっと、いきなり全部はきついって…。」
今まで涼しかったのが一転、汗だくになりながらシュピの希望する料理を作っていった。
「しあわせー!」
「うーん、いつもと違う環境で食べると、美味しいなぁ。」
料理に舌鼓を打つ私達。
特訓の時間があまりさけなかった為、今思えば味はいまいちだっただろう。
しかしこういう時の食べ物は味は二の次であって、食べる雰囲気が重要なのだ。
「おどってー!」
「え!?」
シュピがいきなり、にこにこしながら私に言った。
「ダンスー!」
「…ひょっとして、前に私が言ってたへんなダンスの事?」
こくこくとシュピは頷いた。
「いや…あれはちょっとイヤだよ。」
「うー。」
断るとシュピは涙目になり、泣き落とし作戦に切り替えてきた。
「泣かないでって。いやでもあれは…うーん…。」
恥ずかしくて嫌だったが、私にはシュピにとっての貴重な時間を、少しでも楽しいものにする使命がある事を思い出した。
悩んだ末、私はしぶしぶ首を縦に振った。
「やったー!!」
「あははー!へん、へんー!!」
真っ赤になりながら踊る私を見て、シュピはけらけらと笑う。
恥ずかしさもあるが、この動作は結構体がキツい。
「も、もういいですか…。」
私は息も絶え絶えになり、すがるような目でシュピを見つめた。
「まだー!あははー!」
「……。」
無邪気な微笑みに私は肩を落とし、情けない格好で踊り続けた。
それはシュピが食べ終わるまで続いたのだった。