深翠の試練場低空の、とある浮き島。
風が運ぶは、爽やかな新緑の香りと…
死を呼ぶ、戦いの音だ。
ツキモリの呪文に望みをかけて。
ジア・イロンとの果てしない決戦も、
ついに大詰めを迎えようとしていた。
時間稼ぎは順調。
しかし、おれにはまだ一つ懸念があった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
怒りに任せ、おれ達を仕留めようと躍起になっていたイロンの動きが、ふと止まる。
『 ぬゥ…!
このエネルギー反応…
( く、やっぱりか!
…そう。奴は先程も、ツキモリの唱える呪文の完成に先んじて気付き、それを阻止してみせたのだ。
ツキモリが『あわよくば足止め』と言ったのも
おそらくは再び訪れるであろう
この事態を危惧しての事!
『 相反する属性値のォ…
急激な同時上昇!
【対消滅】か、狙いはァッ!
奴はついに、
少し離れた岩陰に潜んでいた
ツキモリの存在に気付いたようだ。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 小ォ賢しいッ!
どけィ!蝿どもォォッ!!
ツキモリを阻止すべく走るイロンの前に
おれは立ちはだかる。ここが正念場だ。
『 言ってる事の意味は解らねぇが
行かせるかよッ!
奴が一瞬おれに気を取られた隙を突いて
ゲンが跳躍し、背後から素早く斬りかかる。
だが奴は、ゲンを裏拳で捉え、
いとも簡単に吹き飛ばしてしまった。
『 ぐおーーッ!?
今のを易々と喰らうゲンでは無いはずだが…
ここにきて、焦りが出てしまったか!?
いや…イロンもそれだけ必死という事か。
『 く…!
ゲンの安否は気にかかるが、
ここを抜かれてしまえば全てが水の泡。
目を凝らし、耳を澄ませ…
全神経をイロンに向ける。
( 見極めろ、次はどう来る…!
一瞬後、奴がニヤリと笑い、
息を吸い込むのが見えた。
これは…あの時と同じ『喝破』…!
おれは反射的に剣を逆手に持ち替え、
両手で思い切り、奴の足の甲めがけ突き刺した。
『 うぉおおおーッ!!
『 ぬぐゥゥオァァッ!!?
奴の勝利の雄叫びだったはずの喝破は、
たちまち悲鳴に変わる。
そのまま大地に縫い付けんと、
おれは剣を握る両腕に渾身の力を込め続けた。
『 離せ、離せ雑魚がァァ!!
『 ぐはっ!!
我が背中に、何度も凄まじい衝撃が走る。
奴が拳を叩きつけてきているのだ。
おれは血を吐いて大地に叩きつけられ、
這いつくばる格好になってしまうが…
それでも。この手を離すわけにはいかない。
( 守り通せ、今度こそォッ!!!
焦りながら殴打を続けるイロン。
おれは固く歯を食いしばる。
『 ぬァァぜだァッ!
半死半生のクソ雑魚の剣が、
何故抜けんンッ!?
『 抜けるかよ…!!
この剣にはァ…ッ
【魂】が!!
込もってんだッ!!
『 理解不能ォォオッ!!
なァらば、キサマの
その腕ごともぎ取ってェッ…
…不意に、おれの肩を掴もうとした
イロンの言葉と、その動きが止まった。
不思議に思って様子を確認すると…
なんか…奴の後頭部に、
硬質のブーメランが刺さっていた。
『 へっ…!
ちったァ頭が…
賑やかになったじゃねェか、
なあ?タコ野郎…!
どうやらイロンの背後から、満身創痍のゲンが
“レボルスライサー“を投げつけたらしい。
もしかして、さっきの裏拳は
この隙を掴む為、わざと食らったのだろうか。
『 き、キサマァァッ!!
『 おっとタイムリミットのようだぜ?
逝きな…タコ助。
『 !!
ゲンに気を取られたのが
イロン最後の隙となった形で…
『 上出来だ、お前ら。
ついに、ツキモリの呪文が完成したようだ。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
ツキモリの持っていた
『短剣』と『小盾』が突如消滅したと思うと、
莫大な炎と氷の魔力が奴の両手に集まり始めた。
奴はそのまま魔力を結合、消滅させて
凄まじいエネルギーを生み出し…
そのエネルギーを練って
見事な【 光の弓矢 】創り出した。
『 本来なら お前を消せる程の威力には
ならねェんだろうが…
この『火精の短剣』と『氷精の盾』を
犠牲にすれば…今の僕でも
それが出来る魔力を生み出せる。
“ 極大消滅呪文“…
僕の最後の切り札ってヤツだ。
この距離なら、外さねェ。
『 お、おのれェェッ!
我が名はジア・イロン!
ジア・クト最硬の…
『 例えお前が『オリハルコン』の
強度だったとしても!
この矢は確実にお前を貫く!
終わりだジア・クト…
“ メドローア“ッ!!
~つづく~