ザラターンの冒険日誌

『　ふんぬらーーッ！！
　

『『　　えッ！？　　』』


突如、どこからか響いてきた
気合いの声と共に飛来してきた物体は…

『べちょり』と、少しだけ水分を含んだ
柔らかい音を立てて、ゲンの硬質化した横っ面に
ぶつかった。


『　！！？


その瞬間…えも言われぬ『かぐわしい香り』が
我が鼻腔を　くすぐりはじめる…


『　うっ…な、なんだコレ！？

『　う…ヴォエッ！臭ッ！
　　てっ、テメこれ……！
　　【馬フン】じゃねェーかよ！

『　いや、てか　それより…！


おれ達は、慌てて声のした方向に振り向く。
そこに立っていたのは…


☆   ☆   ☆ ☆   ☆   ☆


…エスタータだった。


『　エスタータ！？

『　な、何のつもりだオイッ！？


吟遊詩人は　おれ達の呼び掛けに
すぐには答えず、代わりに…




☆   ☆   ☆ ☆   ☆   ☆


毅然とした、
力強い眼差しを向けてきた。


その眼差しに狼狽する　おれ達を見据えながら、
彼女は胸に手を当て、大きく息を吸い込んでゆく。


『　…めるな…！

『　ん…？







『　あきらっ！！

　　　　　……めるなァァアッ！！！！




『『　！！　』』



…目を固く結んで。腹の底から力を込めて。

エスタータは全霊を込めて叫んだ。


…一体、あの細身の　
どこから捻り出していると言うのか。

天に浮かぶ星々まで届けといわんばかりの
その凄まじいシャウトに…


我が『魂』は、大きく揺さぶられた。


見れば、さすがのゲンも圧倒され、
大きく目を見開いている。



（　そう、そうだ…

　　義理…友情…大人の責任…
　　その為に、心を殺して友を斬る…

　　それが己に課せられた役目？

　　…違うだろ。

　　おれは…【おれ自身】は…！
　　本当は　どうしたいと思ってる？
　　

…改めてゲンを見る。



（　………


（　というか、さっきコイツ…

　　　　『　えずいてた　』よね！？



まだ身体の内部までは、
言うほどジア・クト化してないのか…？


灯台下暗し。
先ほどまで考えもしなかった妙案が
我が足元を照らしてゆく。


『　エスタータッ！！


吟遊詩人に負けじと、おれは声を張り上げた。


『　一曲演ってくれッ！！

『　へっ？　えっ！？


要領を得ず、目を　ぱちくりさせるエスタータに、
【音波攻撃】と、追加で伝える。


『　ああー！
　　おっけ、まかせて！


早速爪弾かれる竪琴のメロディに、
予想通りゲンが過敏に反応した。


『　ぐぉお…！何だこの音…！
　　き、気持ち悪りィッ！！

『　気をしっかり持て！


ゲンには悪いが、これで奴の動きは
大分抑制された。あとは…！


…おれは剣から手を離し…

ジア・イロンに手傷を負わせた　
あの一太刀の要領で、己に残された全闘気を、
己のその『拳』に集中させようと試みた。


（　そうだ、この剣は…
　　友を斬る為の『力』じゃない。


　　…剣に込められた騎士達の魂よ。
　　願わくば　おれに　あと一撃の力と…


　　
　　『勇気』をッ！！





☆   ☆   ☆ ☆   ☆   ☆


『　ゲン…！
　　だいぶ格好悪いが…
　　『さっきの』はナシだ！


　　おれも『賭けて』みたくなったんだ。
　　…お前が…


　　戻って来る方に…ッ！！



『　お、おい待てテメェ…！
　　な、何する気だッ！！


おれの行動を察したゲンが後ずさるが…
構う事はない、大概はコイツの自業自得。
…やらせて頂きます。



…そう、おれは…


血塗られた手で星を掴むくらいなら。


…糞にまみれて、笑ってる方がいい。





『　英雄なんて………ッ！！

　
　　【　クソ喰らえ　】ってなあッ！！




砕けよ我が拳、と言わんばかりに。
全身全霊を込めて…


『　オイ、テメっ待っ…！！


『　うおおおぁおアァァーッ！！


…おれはゲンに…
　　【腹パン】をかましたのだった。




☆   ☆   ☆ ☆   ☆   ☆



『　う、ヴォエェェェエエッッ！！！


『　うむ…ッ！！
　　【出た】ッッ！！！



～つづく～