ザラターンの冒険日誌

『　祝勝会でね。
　　リナーシェが『最後』に…
　　歌ったんだ。

　　しみったれたのは嫌だからって。
　　笑いながら。


エスタータが、その時の事を思い返すように、
ゆっくりと目を閉じる。


『　【この道わが旅】…って歌。
　　あたし　忘れないよ。
　　…ずっと。


…この道わが旅、か。有名な曲だ。
冒険者達に贈る花向けとしては、この上無い選曲。

もし歌姫が立つその場に　おれも居たなら…
きっと感動滂沱に咽いでいたに違いない。


『　…そうか。
　　聴いてみたかったな、おれも。

『　いつかさ、あたしが歌うよ。
　　この曲が似合うくらい…
　　素敵な大人になったら。

『　はは…そりゃいいな！
　　気長に待つとするかね。

『　そんな未来は　まったく想像できねェが…
『　うるさいなツキモリは！


座った目で　すかさず横槍を差し込むツキモリに、
照れ隠しも兼ねて突っかかる吟遊詩人。

しばらく角とスカーフの引っ張り合いが続いた後、
エスタータは、ふと何かを思い出した顔をしながら
咳払いをした。


『　ザラさんも、さ。
　　稽古つけて　もらったんでしょ、
　　ラダ・ガートに。

『　ああ。


ラダ・ガート王に、想いを馳せる。
500年前を生きた伝説の闘神との、
一度きりの邂逅。そして手合わせ…


『　やっぱり、悲しい？

『　う…む… 

　　いや、正直…
　　今となっちゃあ、王がここに居た事自体が
　　夢だったんじゃないか…ってくらい、
　　現実味が…

『　なんだそりゃ。


『　それにだ。

　　王は…

　　いや、多分…
　　勇者も、三闘士も、
　　歌姫も…剣聖も。

　　…英雄達は皆、
　　満足して消えて行ったと思うんだ。
　　少なくとも……

　　一回目に死んでしまった時より、
　　ずっと、な。



…彼らが新しき神として現世に舞い戻ったのは、
『今を生きる人々』を守るため。

しかし、その想いはジア・クトに利用され…
憎悪を煽られ、絶望に飲まれて。
彼らは悪神に堕ちてしまう。


…そんな彼らに希望の光を示し、
闇から救い上げたのは…

彼らが、己を犠牲にしてまで守らんと誓った…

他ならぬ、今を生きる者たちだった。
　


“ お前は…
　　人を守り、導く【神】という存在が…
　　この世界に、本当に必要だと思うか？　“



…今なら、王の質問の意味も。
彼が　おれに礼を言った意味も。
少しだけ、分かる気がする。



きっと英雄達が思うほどー…

　　おれ達は『弱く』はなかった。



そしておれ達が思うほどー…

　　英雄達は『強く』はなかったんだ。



（　だったら、『そこに居た』のはー…



…英雄とは、

星を掴む力を持つ者の事か？

答えは、きっと否だ。


『　彼らはこの天星郷でようやく。
　　今度こそ。自分の星を掴めたんだ。

　　だからこそ。
　　みんな、最後に…
　　
　　笑ったんだろう。



『　…そっか。

『　ふん。


『　だったら、彼らに守られた
　　おれ達も。




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『　しっかりと。
　　笑って生きてかないと。

　　…な！



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かくして。

おれ達の、天星郷を巡った　一つの大きな冒険は…
ここに、ひとまずの幕を下ろす事になる。


地上へと降りる前に、
おれはもう一度だけ…

この天星郷の空を見上げた。

晴れ渡る朝の青空。
そのさらに上空に瞬く小さな星々は…

いつまでも、
おれ達を優しく見守っててくれるような…

…そんな気がした。



～天星・了～