『 外の世界、かぁ…
次第に瞳に光が灯り始めた錬金術師。
おれは笑顔のまま、
中央広場の方に視線を向けた。
『 ああ、それにー…
晴れ渡る空の下、
メレアーデ王女の演説は続いている。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 …今日の この式典だって。
エテーネ王国を、世界に向けて
開かれた国にする為の第一歩、なんだろ?
たとえ何もしなくったって、
これからはきっと、世界の方から
色んなモノがこの国に
流れ込んでくるぞ。
おれみたいなのが、ここに居るのがその証拠だ、
と、胸をドンと叩いてみせると、
アレナは一瞬きょとんとしたあと、
声を上げて笑ったのだった。
『 …そうですね!
その為にメレアーデ様は…
いいえ、私達はー…
王権の象徴である
『時見の鍵』を、慰霊碑の下に埋めて…
指針書に頼らない国を
目指す事に決めたんです。
うつろい行く この時代で…
強く、生きてゆく為に。
…アレナは、静かに広場から視線を戻すと、
手を固く結んで、改めてこちらに向き直った。
その顔は、先程と打って変わって、
決意に満ちていた。
『 エテーネの外の世界へ…
い、いつか私も、出てみたい…!
と、今!…思いました。
今はまだ、飛び出す勇気は持てそうにないけど… でも、いつかー…
色んな錬金術や、景色を。
この目で見てみたい…!
『 おお…そうか!
光の灯った錬金術師の瞳は、なんというか…
これから始まる大冒険に想いを馳せる、
駆け出しの冒険者の それに
よく似ている気がした。
なんだか それが、すごく嬉しくて、
おれは頬が緩んだまま
何度も うんうん、と頷いていた、
『 ゆっくり考えるといいさ。
おれも、この国に寄ったら
君の工房に顔を出すようにするから、
冒険者として できる事が もしあれば、
何でも言ってくれ。
きっと力に なれると思う。
ま、逆に こっちが錬金術のお世話に
なるかもしれないが…
『 本当ですか!?
ありがとうございますっ!
あっ…でも、じゃあ…
『 うん?
『 地図に、印を付けておかないと。
ザラターンさんが、次来た時に、
迷わないように!
『 あっはっは!そりゃ参った!
そうだな、助かる!
アレナから、工房の位置にX印を付けられた
街の地図を、改めて受け取る。
『 X印か…まるで
『お宝の地図』みたいだな。
迷宮の街の…お宝の地図。
『 迷宮…!ふふ、まだ言ってる!ぷぷっ!
どうやら迷宮という言葉がツボに入ったらしき
錬金術師を尻目に、
地図を丁寧に折り畳んで、
鞄にしまっていると…
何やら広場の方から、喝采が響いてくる。
どうやら、式典も たけなわらしい。
『 私たちが共に手を取り合い 歩む未来が…
輝かしいもので ありますように!
我らが故郷、アストルティアに栄光あれ!
はっきりと ここまで響いてくる
メレアーデ王女の気合いの入った締めの言葉と、
聴衆達の大喝采。
どうやら、今回の お披露目式典は
大成功に終わりそうだ。
( おれも何だかんだ、この国でも
数奇な縁に恵まれたな。
迷子だって捨てたもんじゃない。
…そんな事を思いながら、なんとなく…
アレナに貰った小さな砂時計を
目を細めて空に透かしてみる。
陽の光を反射しながら
キラキラと流れ落ちる砂は、
まるで星屑を砕いたように見えた。
しかし…次の瞬間。
流れ落ちていた砂が…ふと、
『 止まった 』気がした。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
…全ては、一瞬の出来事だった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
( あれ…?
んん?おれ……今……
『誰と話してた』んだっけ……?
~つづく~