ザラターンの冒険日誌

『記憶』って、何だろう。

まだ見慣れぬ異郷の空を見上げ、
流れる雲を眺めながら
ぼんやりと思う。


（　記憶…“おもいで“…か。


人が生きてゆく中での、あらゆる体験…

それはたとえば、たあいのない日常。
忙しくも輝くような、充実の日々。
ボロクソに失敗した、ほろ苦い日。
…なんてのもあるかもしれない。


多分、それらの大半は、
自分一人で作れるものじゃない。


人は人と出会う。
その関わりの中で協調し、影響し合い、
時に争い、笑いあい…

そんな中で喜び、悲しみ、怒り、愛し、憎み、
慈しみ…そして、いつか別れる。


…人はそれらを否応無く記憶してゆき、
そしてその積み重なった記憶が、
おもいでを織りなしてゆくのだろう。


（　たとえ関わりを失ったって…
　　おもいでは残る。

　　笑って歩んだ愛おしい日々も…

　　忘れ去りたいような黒歴史だって。

　　良くも悪くも、
　　あらゆる記憶…おもいでこそが、
　　今現在のおれを…
　　【人を形作る根幹】になってるってワケだ。



しかし。
…たとえば。


それを…おもいでを突然『失った』として。

おれは『おれで居られる』だろうか？


☆   ☆   ☆ ☆   ☆   ☆


おれの名は『ザラターン』。
オーガのしがない冒険者。


『　どうだクー、
　　ゼニアスに来て
　　何か思い出せそうか？


空から戻した視線を、おれは
かたわらの少年に向けた。


☆   ☆   ☆ ☆   ☆   ☆


彼の名は『クー』。
ひょんな事から知り合って、
しばらく面倒を見る事になった
人間族の少年だ。


どうやら彼はー…

【　記憶喪失　】らしいのだ。


『　うーん…
　　懐かしい……？

『　お！？

『　ような…
　　まったく　そうでもないような？

『　お、おう…？


☆   ☆   ☆ ☆   ☆   ☆


『　なんだそりゃ…


腕を組んでクーを睨み、嘆息するのは
エルフ系魔族の『ツキモリ』。


『　ままま、ゆっくり思い出そ。


そう言ってクーに笑いかけるのは、
ウェディの吟遊詩人『エスタータ』。

いずれも我が旅の仲間達である。


『　だな。
　　今は目先の仕事から片付けるか。

『　うん、行こう。


☆   ☆   ☆ ☆   ☆   ☆


夕暮れ時が近い。

目線の先は、見渡す限りの平原。
その大半を埋める枯れた色の草花は
西日を受けて、金色に輝いているようにも見えた。

また、所々に突き立つ、ビスマス鉱のような材質の
石柱は、見紛うものか『ジア結晶』と呼ばれている
代物である。

ジア結晶の存在は、
この大地がかつて
我らが世界、アストルティアと同じく、
『ジア・クト念晶体』と呼ばれた侵略者の
襲撃を受けていたという事実を
痛々しく物語っていた。


（　少しずつ、枯れゆく大地、か…


少し冷たい風が静かに吹き抜ける。
一瞬感じたそんな感想を打ち破るかのように、
吟遊詩人が勢いよく竪琴を爪弾いた。


『　♪おお、語る風さえも新しき
　　　金色のレストリアの野よ♪

　　♪いざ、いざ往かん！
　　　創生の大神の故郷、
　　　とこしえのゆりかご、
　　　果ての大地、
　　　其の世界の名、ゼニアス♪

　　　…ってね！


かくして、おれ達の新たな冒険は
幕を開けるのだった。


～つづく～