シュタール鉱野のある島を海岸沿いに
回り込むように抜け、島の南方に架けられた
もう一つの大橋を西側に渡って
再び元居た大陸へと戻って来る。
現在地としては、
はじまりの地を擁するレストリア平原から
天険を挟んでちょうど真南辺り、
ということになるだろうか。
とんだ回り道をしたワケだが、
少なくともヒトの足では
これが最速ルートだと思いたい。
ともあれ…
そんな歩き詰めの おれ達を迎えてくれたのは
瑞々しい緑の草原と、アストルティアの
メルサンディ地方を彷彿させるような、
金色に輝く、豊かな穀倉地帯だった。
どうやらここが、城塞都市アマラークのある
『タービア草原』で間違いなさそうだ。
『 あっ!
みてみて、案山子っ!
ちょっとオシャレだし!
…旅の疲れからか口数の減っていた
エスタータが一転、歓声をあげる。
まるで世界の終末のように荒廃していた
鉱野の風景から打って変わって…
ようやく、現在でも確かに息づいている
人々の『生活臭』を目の当たりにして
安心したのだろう。
無論、おれも同じ気持ちだった。
『 おっし、この分だと
アマラークも近そうだな。
足取り新たに、
おれ達は意気揚々と歩を進めた。
…はず、だったのだがー…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
( ね、ねえ、あれ…
( しっ…関わんな!
目も合わせんな…!
( どうにか
やり過ごそう…
おれ達の目の前を今、紫色のでっかい
トウモロコシみたいなのが闊歩している。
いやどういう状況だ。
現地の人…なワケはない…よな…
ゼニアスに『ヒト』は
人間族しか居ないと聞いてるし。
( まぁ…魔物だわな…
急ぎの旅だからと、
ヤバい魔物が出るという噂の近道を
押し通ろうとしたのが間違いだったか。
しかしヤバいって、そういう意味の…?
『 あーた。
『 えっ!?
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 そこのレッドでビッグな
あーたよ。
『 は、はい!?
…しまった…
まさか急に絡まれるとは思わず
つい返事をしてしまった…!
しかし、言葉が通じるなら
なんとかやり過ごせるか…?
とりあえず、作り笑顔でもしておくか。
『 アテクシって……
キレイ?
『 うんっ?
紫トウモロコシの
流し目からの突拍子も無い質問に、
笑顔のまま凍りつく。
軋む首を回し、
助けを求めて仲間達を見るも…
狼狽えるクー(←いい子)以外の二人は、
遠い目で風景を眺めていた。
どうやら完全に他人のフリを決め込むつもりらしい、このやろどもが。
…仕方ない。意を決して、
おれは咳払いをした。
確かに、お洒落に気を遣ってそうな
紫モロコシではあるな。うむ、よし。
『 あっ、ハイ…!
肌…種?にハリもツヤもあって…
む、紫で…キレイなんじゃないかな。
頭の黒髪…ヒゲ?もサラサラで、ね。
でも纏まりがあって美…
『 ちょっとー、
いやらしい目で見ないでくださるー?
我が決死の おべっかは、
無情にも食い気味に遮られた。
魔族と吟遊詩人が、声を抑えて失笑する。
『 あーたじゃお話にもならないわ~。
( こンの…モロコシィィ…!
おれは反射的に抜刀しかけたが…
いや、堪えろ…!
魔物とは言え、さすがに
言葉が通じる相手を斬るのはちょっと気が引ける。
『 あらー、なかなか美しいボウヤが
いるじゃない~
モロコシは、蔑みの目線で
おれを一瞥した後、次のターゲットに、と
ツキモリに絡み始めた。
魔族は死んだ目で
モロコシに向き直る。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 あーたは…
『 …うるせェよ粉に引いて固めて
なんかおいしい棒にするぞ
クソモロコシ。
( あ、おい、ツキモリ!
…魔族は当然、忖度ゼロだった。
おれの苦労は一体…
しかし、この暴言に
意外にもトウモロコシはパッと笑顔になった。
『 あら~この
ブラッディ・ゼアに向かって…
言うじゃな~いボウヤ♪
いいわ~、かかってらっしゃい!
アテクシあーたになら粉に引かれて
おいしい棒にされても本望っ!!
『『『『 ……… 』』』』
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 というワケだ。
食うか?
『 ええっ!?
い、いらない…!!
草原の一角に、立ち昇る煙。
きちんと消火はしておこう…
両手を合わせ、一礼。
…アマラークまで、おそらくあと僅か。
気を取り直して進むとしようか。
『 うまいぞ、意外と。
『 いらないって!
~つづく~