『生きよ』。
…駆けつけたリズク王のただ一言の激励に、
一瞬、静まり返った広場。
各々が顔を見合わせ、固唾を飲みながら
己の拳や武器を見つめ直している。
王は強い眼差しのまま、その様子を
ただ真っ直ぐに見据えていた。
『 そうだ…生きるんだ…
…最初に誰かが、静かに呟いた。
『 オレ達は…まだ戦える!
『 おう、やってやる!
『 こんなところで死ねないよッ!!
『 生きる…絶対に生き残るぞ!
それを皮切りに、呼応の声が次々と続く。
数秒と待たぬうちに、
広場は熱気と結束を取り戻していた。
その様子に、若き王は力強く頷く。
『 そうだ!
皆、今しばらくの辛抱だ!
イルシーム達が必ず、フーラズーラどもの
親玉を討ち倒すだろう。
さすれば…此奴らは消える!
全員で生きて…明日を迎える為に…!
一人一人の未来の為にッ!
今しばらく、
歯を食い縛り共に戦ってほしいッ!!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
続く王の言葉に、広場はたちまち
割れんばかりの歓声に包まれた。
『 そうだわ!イルシーム様ならばきっと!
『 イルシーム卿が必ず!!
『 イルシーム殿を信じようッ!
『 イルシームさまがーっっ!
『 イルシームがッッ!!
『『『 アマラークに勝利をッ!! 』』』
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 ははっ!すごいや…!
さっきまでとは、
みんなの気合いが段違いだ!
戦いながら、クーが感激の声をあげる。
『イルシーム』…その名が出た途端に、
広場は更に結束を強めた気がする。
おそらくは、おれ達で言うところの
『エックスさん』のような…
この国の、人望ある英雄の名なのだろう。
かくして、凄まじい熱気が渦巻く中。
アマラークの人々の、
希望に満ちた猛反撃が始まったのだった。
そんな広場にあって、おれはというとー…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 なんか…おれが良いこと言ってたのが
全部…リズク王と『イルシーム?』に
持ってかれちまってない…?
『 はっ、お前、
言うほど良いこと言ってたか?
『 ね。はなぢ出して
わめいてただけじゃん?
『 えっ…?
…魔族に尻を小突かれ、
吟遊詩人に背伸びで鼻を拭われながら、
その二人の酷評に絶望していたのだった。
『 ちっくしょう…やってやる…
かくなる上は、意地でも生き抜いて…
真のヒーロー…イルシーム卿とやらの顔を
一目拝んでやらァッ!!
『 んだそりゃ…
『 あっはは、よぉし…!
じゃあ気合い入れなおそ!
やけくそ気味に敵陣に斬り込む鬼を見送りがてら、
吟遊詩人が力強く竪琴を爪弾いた。
“ たとえ全ての麦が倒れ
水が干上がり 涙枯れても…
お前の声が枯れない限り!
救いは必ず訪れる! “
『 きざめぇーッ!!
“たたかいのビート“ッ!!
タービアの穀倉地帯と案山子から
連想したのだろうか。
即興で紡がれたエスタータの『小さな英雄の詩』が、広場の熱気と反撃の勢いに拍車をかけてゆく。
その勢いに背を押されながら
前線で剣を振るうさなか、おれはー…
さっき根性で張った
最後の“防塞領域“が、
その効果時間をまっとうして
静かに消えてゆくのを感じていた。
たがー…
それでも。人々の中に
絶望の顔を浮かべた者は、もはや。
ただの一人もいなかった。
~つづく~