アマラーク。宴の夜の熱気から逃れ、
涼と静寂を求めてやってきた、
街外れの小さな泉のほとり。
だがー…
着いて数分もしない内に、
その心地良い静寂は破られる事になった。
突如、凄い勢いで空を裂く音が
響いてきたからだ。
( …!殺気!?
反射的に腰の剣に手をかけて
音の方向に身構えると、今まさに空中から
襲いかからんと跳躍してくる黒い影!
( いや違う、これは…!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
おれは いったん構えた剣から手を離し、
『拳』をもって影を迎え撃つ型を取った。
程なく。
空中から、全体重をもって
打ち下ろされる襲撃者の拳。
それを後ろに跳んで躱すと、おれはそのまま
地を蹴って、勢いに任せて反撃に出る!
『 ぬぉおッ!
だが、数歩踏みこんでの正拳は、
いとも簡単に打ち払われる。
そのまま攻守が入れ替わり、相手の乱打が始まった。しかし…
次々繰り出される相手の拳を、
おれはいなし、躱し…
右へ左へ、柳のように受け流してゆく。
( 右!左!右、右…!
ここだ!
大振りの一撃を見極めて鼻先一寸で避け、
そのまま素早く相手の腕を捕らえて
背負い投げを食らわせる。
だが、相手は難なく受け身を取ると間髪入れず、
こちらの追撃許さぬ猛反撃に出てきた。
『『 おおおおッ!! 』』
かくして、加速してゆく乱打の応酬。
だがそのやり取りで、両者が傷つく事は無い。
何故ならば…
( 懐かしい。
そう、これはー…
ランガーオ式武術の『演舞』。
程なく、闘気を高め合った両者は距離を取り、
疾走からの渾身の跳び蹴りを交錯させる。
『『 はあーーーッ!! 』』
それが演舞終了の合図だった。
…両者の着地からしばらくして。
『 ふ…はははっ!
襲撃者は笑い声を上げながら歩み寄ってくる。
おれも笑顔で、それを迎えた。
『 腕を上げたじゃないかザラターン。
正直、見違えたぞ。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 そりゃどうも。
10年以上ぶりかな、
『ジーガンフ』。
久々に会った幼馴染と、固い握手をかわす。
まあ元々、そんなに親密だったワケでも
ないのだが。
『 燈火の調査隊からの援軍が
まさかお前だったとはな。
水くさい、声くらいかけろ。
『 いやあ、悪い。
ひと声かけようとは思ってたんだが…
誰かさんは人気者らしく、
いっつも人に囲まれてたから
近寄り難くて…ね。
しかし…ジーガンフが武術師範とは
正直意外だったよ。
そのおかげで おれもフーラズーラに
対抗できたから助かったけどな。
彼は村にいた頃から、
ストイックに己を鍛え上げる事には
余念の無い男だったがー…
逆に、人にモノを教えたりしていたのは
あまり見た事が無かったのだ。
『 己でもガラじゃあ無いのは
解ってるんだが…
まあ…色々あってな。
苦労も絶えんが、なんとかやっている。
ジーガンフは、そう苦笑いした。
握った拳を遠い目で見つめるその瞳は、
おれの知っていた昔の彼とは
少し違って見えた。
『 ふふ、まあ10年以上、か。
人も変わりもする…よな。
『 む…そういうお前はどうなんだ。
相も変わらずフラフラと
ほっつき歩いているのか?
したり顔で相槌をうつ おれが癪に触ったか。
ジーガンフは僅かに眉間に皺を寄せ、
人差し指をこちらに突き付けてくる。
いやはやまったく、酷い言われようだ。
まあ…別に間違いでもないのだが。
『 まあ、な。
剣を捨てて真っ当に生きようか、
なーんて考えた事も一度はあったが…
ま、こっちにも…色々あってね。
今では、とことんまで
『ほっつき歩いてみる』のも
悪くないと思ってるよ。
…そう言って剣の鞘をポンと叩いた おれは多分、
今さっきのジーガンフと
似たような瞳をしていたのだろう。
目の前のもう一人のオーガは、そんなおれを見て
くくくと喉を鳴らすのだった。
『 …お前とは
良い酒が飲めそうじゃないか。
『 酒、か。
嫌いじゃあないが、
呑むとすぐ眠くなるんだよなあ…
『 なんだ、つまらん奴だな。
『 …ふむ、なら『甘味』ならどうだ?
『『 !? 』』
突然、おれ達の会話に割り込んでくる声が響く。
なんだ?気配に全く気付かなかったが…
ジーガンフも一瞬身構えたようだが、
すぐに警戒を解いて息を吐く。
知り合いか…?
『 なんだ、『イルシーム』か。
~つづく~