『 いいかお前ら。
アストルティアの数少ねェ良い所は、
飯が美味いこと、だ。
そしてその中でも、
このエルトナ料理こそが至高!
…昼時のアズランの町。
その一角にある、魚の焼ける香ばしい香漂う
とある食堂に、多少の酒が入った魔族の、
興奮気味な高説が響き渡っている。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 そして…!
エルトナ料理を至高たらしめているのが!
このマメ…『大豆』だッ!!
ツキモリは鋭い目を
『カッ!』と平行四辺形に見開くと、
煮豆を一粒、箸で掴んで
席から勢い良く立ち上がった。
この魔族、普段はローテンションで
アンニュイ気味な性格のだが…
実はわりとグルメな気質があるようで、
自分の好物や、珍しい食べ物を目の前にすると、
今のように昂ぶりを抑えられなくなるらしい。
最近分かってきた、意外な一面である。
『 例えば…大豆を使った調味料…!
『味噌』を使ったこのスープ!
『オミソシール』だッ!!
見ろ、このスープに入ってる
『オトーフ』も!『オアゲ』もッ!
全部、大豆から出来てやがんだぜ!?
大豆の汁に、大豆と大豆ぶち込んで
食ってやがんだ…!
なあクレイジーだろ…?
エルトナの奴らはッ!!
おれとエスタータは生暖かい目でそれを聞き流し、
ツキモリにもエルトナ料理にもまだ慣れていない
クーとアレナが固唾を飲んで見守る中、
当の魔族は、まるで宝石を見るような恍惚とした顔でスープの入った深皿…『お椀』を
授かり物のように天に掲げるのだった。
どうやら、『クレイジー』は、奴にとって
最大級の褒め言葉に該当するらしい。
『 おい、ちゃんと聞いてたか赤毛!
味噌汁をひと啜りした後、ツキモリは
座った目で錬金術師に絡み始めた。
( おいおい、付き合いも浅いアレナに
ウザ絡みすんなよ…!
さすがにコレは止めに入らねば、と、
おれは身構えた。のだがー…
『 勿論ですッ!
アレナはツキモリと同じく味噌汁を啜ると、
意外にも威勢良く魔族に応じるのだった。
『 このスープ…!
お味噌の風味とお味は、
とても興味深いです…!
煮込んだマメ…大豆?を潰して、
お塩で和えて熟成…ううん、
お塩だけではこの芳醇な風味とコクは
引き出せない…!
他に何か、錬成の決め手となる素材と
あとはきっと黄金の配合比が…!
…錬金術師は眼鏡の位置を直しながら、
ぶつぶつと早口で何かを呟きはじめる。
『 お、おぅ…!
結構、み、見どころあるな、お前…
魔族を含めた一同…
ひとり、光の速さで考察の世界へと旅立ってしまった彼女を、ただポカンと見守るのだった。
( そうだった。そういやそういう子だった、
アレナはー…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
ゼニアスの旅を中断し、
急ぎ、エテーネ王国に舞い戻って来た時。
アレナは変わらず、
あの日地図に記された錬金工房に居た。
だが当時のおれ同様、
彼女自身、その身に何が降り掛かっていたのかまではよく解っておらず…
“ 式典のあったあの日から、ずっと。
ただひたすら、真っ暗な空間を
歩いていたような気がします。“
彼女は、ポツリとそう語った。
それは一瞬だったようにも、
とても長い間彷徨っていたようにも感じられ…
いつしか歩き疲れて気を失い…ふと気がつくと、
元いた場所へと帰還していたらしい。
『全ては悪い夢だったのかもしれない』。
そう笑うアレナだったが、
それでは、おれ側の説明がつかない。
彼女の存在が、我が記憶からすっぽりと
抜け落ちてしまっていた事もそうなのだが…他にも。
例えば、彼女から『お土産に』と貰った、
錬金術で作られた、手製の砂時計。
おれは長い間、それを何故か、
『 式典会場で配布されていた物 』と
錯覚して記憶していたのだ。
( 記憶の喪失どころか、改竄までされている。
一体何故、こんな事になっている?
おれの頭、どうしちまったんだ…?
…己の記憶すら信じられなくなり、
おれの頭は当時、混乱を極めていた。
そんな最中。
おれ達に…いや、正確にはアレナに。
意外な人物からコンタクトが入る事になる。
声を掛けてきたその人物の名はー…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
【 パドレ卿 】。
旧体制のエテーネ王国での、言わば王族であり、
現エテーネ代表である、メレアーデ女史の
叔父にあたる人物だった。
~つづく~