アレナと別れた おれ達は、その足で
淡い陽光の下、大エテーネ島を往く。
意外にも、煌びやかな王都キィンベルを背に
少しばかり歩き出せばすぐに、緑豊かな原野や、
肥沃な湿地帯の風景が おれ達を迎えてくれた。
『 隆盛を極めた古代王国ってヤツでも、
別に郊外まで都会だったって
ワケでもないんだな。
『 ね。ちょっと意外。
我々現代の冒険者から見ても、
どこか安心するような風の匂いと、
この牧歌的な風景に当てられてか、
エスタータが一つ、呑気に大あくびをした。
それを横目に、おれも頭の後ろで手を組んで、
ゆっくりと流れる雲を仰ぎながら、
これからの身の振り方を考える。
『 さて…
ぼちぼち、クーの記憶探しを再開、だな。
だけども『こっち』じゃ結局、
手がかりは見つからなかったし…
もう一度ゼニアスを洗い直してみるか?
燈火の調査隊は解散したものの、
先の創失騒動の折、ドゥラ院長からは一応、
必要に応じてのゼニアス入りの許可は貰ってはいる。
もっとも、色々と面倒な手続きや制約を
設けられた上の話ではあるがー…
ま、背に腹は代えられまい。
門前払いされないだけ
ありがたいと思うことにしよう。
『 その事、なんだけどさ…
…我が言葉に、ふとクーが足を止め、
こちらへと向き直る。
その顔つきは、少し神妙だった。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 オレ、考えてたんだけど…
記憶、さ。
別に…みんなに苦労かけてまで、
無理に取り戻さなくても…
いいんじゃないかな、って。
『『 えっ… 』』
クーの突然の発言に、おれ達は驚いた。
やはり『己の為におれ達を付き合わせている』という負い目が、まだ拭い去れていないのだろうか。
『 おいおい、なんだ?
今さら水臭いぜ。
『 そうだよ、あたしら別に苦労なんて!
『 あ、いや、違うんだ!
ありがとう。
でも別に…後ろ向きな話、
ってワケじゃなくてさ…!
…当然のように突っかかる、鬼と吟遊詩人。
その反応を ある程度予測していたか。
慌てて両手を突き出して二人を制すと、
少年はゆっくりと語り始めたのだった。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 ほら、こないだジュレットで
あの不思議なロボット…
パイセン?を見ててさ、思ったんだ。
そうか、オレも…『カラッポ』に
なっちゃってたんだな、って。
でも…オレは運良く、みんなに拾われて。
みんなと一緒に旅をして。
冒険して…悪いヤツらと戦ったり、
色んな所に行って、色んな景色を見て。
みんなから色々教わったり、
おいしい物食べたりもして…
そんな毎日が、充実してて。…楽しくて。
それで気付いたんだ。
たとえカラッポになっても。
そこから、少しずつでも。
満たしていく事ならできるんだ、って。
だからー…
そこまで語って、クーは言葉に詰まったようだ。
どうやら、己の中に秘めた感情を、
全部は上手く言葉に変換しきれないらしい。
( でもまあ…言いたい事は大体わかる。
彼の言葉は、もっともではある。
たとえ記憶が戻らなくとも、
前向きに新しい人生を歩んで行く事はできる。
逆に、失われた記憶が
悲惨なものだった可能性が無いとも言い切れない。
何が何でも取り戻す事が、
絶対の正解では無いかもしれないのだ。
…クーには剣の才能もあるから、
少なくとも、冒険稼業や傭兵、
討伐隊等を生業にすれば
食いっぱぐれる事もないだろう。
真面目で素直な子だし、記憶が無くたって、
十分にやっていけるはずだ。
( しかしー…
…おれが、心に引っ掛かった事を
言葉にしようとした、その瞬間だった。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 …だから一生、記憶が戻らなくても
別に困らねェ、って?
突如。
今の今まで、一切、会話に入ろうとしてこなかった
ツキモリが、口を開いた。
そのいつもの口調、仏頂面から、
奴の感情を読み取る事はできない。
おれはエスタータと顔を見合わせて肩をすくめると、ひとまずは、事の成り行きを
見守ることにしたのだった。
クーは、しどろもどろになりながらも、
懸命に言葉を紡ごうとする。
だがー…
『 オレ、オレはー…
『 却下だ。
『 え…?ぇえーッ!?
~つづく~