失われた過去を取り戻す事には別に拘らず、
これからを前向きに生きてゆきたい。
…そう結論を出そうとした、記憶喪失のクー。
ツキモリは、そんな彼をバッサリと否定した。
奴はおれ達に背を向けていて、
その表情を見て取る事はできないがー…
『 聞け、クセっ毛。
魔族はそのまま振り返る事無く。
おもむろに、抑揚の無い声色のまま語り始めた。
『 100年以上前の話だ。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 僕は生まれてすぐに、二束三文の端金で
ゼクレス…魔界の国の、クソ貴族の所に
売り飛ばされてきたらしい。
『 え…
『 そう聞かされて育っただけだから、
本当の事なんて解りゃしねェが…
実際、物心ついた頃には
すでにそのクソ野郎の屋敷で
奴隷同然の生活をしてたから、
まぁその通りなんだろう。
…それこそ飯なんて、
ロクなモンが配給されなかった。
労働中、街外れの水路で見かけるような
ネズミだかカエルだかを、
こっそり とっ捕まえては、
たまのご馳走だ、と思えるくらいにはな。
…いつか少しだけ聞いた、ツキモリの過去。
どうやらおれが思っていた以上に、凄惨な子供時代を過ごして来たようだ。
( 色んな飯に感激しやすいのも、
そんな半生だったからこそなのかもな…
『 大概ロクな過去じゃねェ。
正直、叶うなら、それこそ
忘れちまいてェような記憶ばかりだがー…
背を向けたまま、魔族は自虐的に笑う。
『 ま、それはいい。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 てなわけで、僕には家族が居ねェ。
正真正銘、天涯孤独の身の上ってやつだ。
だから記憶なんぞ、失っても全く問題ねェが…
だけどクセっ毛。
…お前はどうだか分かんねェだろ?
『 え…?
『 お前のこと。
…今も必死になって探してる奴が、
もしかしたら居るかもしれねェ。
『 !!
ツキモリの一言にハッとなるクー。
『 ………
『 そうだよ!
諦めずに探そう、記憶!
言葉を失うクーに、エスタータが
間髪入れずに笑いかける。
『 それに…ツキモリ!
続けて吟遊詩人は笑った顔のまま、
しかし涙声になって魔族に呼び掛けた。
『 探すっ…!
もしツキモリが記憶喪失になって失踪したら!
あたしが、あたしらが探すから!
だから…そんな寂しいこと言わないでようっ!
『 ………
数秒の間があって。
背を向けたまま、魔族はいつも通りのため息をつく。
『 …お前、んなどうでも良い事で毎度毎度、
いちいち泣いてんじゃねェよ…
( ふ、ちょっと照れてるな、これは。
『 泣いてないし!
そんで どーでも良くないしッ!
ね、ザラさんも探すよね!
ツキモリいなくなったら!!
『 えっ!!
…急に話を振られ、今度はおれが面食らった。
まぁ…探すけど。探すだろうけども…
面と向かって堂々と応えるのは気恥ずかしい!
『 お、おぅ…うん、探す探すー…
『 そんな曖昧な返事をするやつは~…
探してあげません!失踪しても!
『 あっ、すません
探す!探しますゥー!!
『 うるせェよお前ら!
いっそ そっとしとけよ!
探さないでくださいッ!
『 ぷっ…
あっはっはッ!!
…おれ達のやりとりに、クーが盛大に噴き出す。
3人、顔を見合わせた。
珍しいクーの大笑いに、自然とこちらも、
だんだんと笑顔になってくる。
『 ありがとうツキモリ、みんな。
オレ…諦めないよ、記憶探し。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 …そうか。
よろしくな、これからも!
『 うん、よろしく!
『 頑張ろうね!
鬼と吟遊詩人が、改めてクーと握手を交わす。
魔族はそれに加わろうとしなかったがー…
珍しく、晴れやかな顔で空を見上げていた。
『 …僕はサバの味噌煮でいい。
『『『 え? 』』』
言葉の理解が追いつかず、
キョトンとする3人。
ツキモリは、空を仰いだまま続けた。
『 『故郷の味』。
本当の故郷は分からねェからな。
それでいい。
だから。
いつか記憶を取り戻したらー…クセっ毛。
お前の思い出の味…故郷の飯を、
僕に食わせろ。
『 ツキモリー…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 …そこに着地するんだ、この話って。
『 むしろそれ以外に記憶戻すメリットあるか?
『 えぇ~…
エテーネの空に、温かな風が吹く。
ともあれ…決意新たに、旅は続いてゆく。
~サバの味噌煮、了~